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姦譎の華
第13章 13
「さっきから勝手に……」

 もしかして、罠か。

 そう気づいたときには、鉄槌は静止不可能なところまで繰り出されていた。いくら二度も殴られた愚鈍な中年でも、来るとわかっていれば受け止めることは容易かった。

 胸乳を狙っていた手で拳をとらえられ、そのまま、後ろ向きに引きずられる。

「いたっ……」

 後頭部を何かに打ち、硬い感触が背中に一本通った。並べられたスチール棚の、二つ合わさった柱だった。

「しっ、島尾さん、やめてください……」

 血相を変える稲田の様子に、いきなりのことに動転していた多英の視線も自然と頭上へと導かれた。備品棚にあった養生テープで腕と柱をせっせと括っている。かなり後傾して凭れていたがために為す術はなく、体勢を立て直す前に完全に固められた。

「……いやぁっ!!」
「おいよせよ、誰かに聞こえちまうだろ」

 場所を忘れて叫ぶ唇へも、短くちぎられたテープを貼り付けられる。

(ンーッ……!)

 耐え難い痛みはない。呼吸もできる。
 しかし──

「素直に認めねえ美人秘書様が悪りいんだ。……おい稲ちゃん、そこのダンボール持ってきて椅子にしてやれよ」

 島尾が多英の顎をしゃくりつつ指示をしたが、稲田はすぐには動こうとしなかった。

「どうした稲ちゃん、早くしてくれ」
「いや、俺はこういうのは……」
「何言ってんだ。オッパイモミモミ、オマタナメナメしてわかったろ? この女がどういう女なのかよぉ」
「で、ですが……」
「イヤヨイヤヨも好きのうちってやつだ。女ってのはな、口では何て言ってようがカラダは正直なもんなんだ。稲ちゃんだってさ、この女をもっとヒイヒイ言わせたいだろ?」
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