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姦譎の華
第14章 14
「だってどうせ一年も行かないのに……、意味が無いわ」

 あんたの足だって二本しかないのに、下駄箱の全段を占領したブランド物の靴のほうがよっぽど意味がないだろう。そう思いながら久々に食べるイカを咀嚼していたが、まあいいじゃないかと宥められても口を尖らせている母の表情が、冷たくネットリとした歯触りの中に胸やけするような苦みを混ぜ込んできたから、

「中学に上がるときは、制服もね」
「ああ、たしかにそうだ。採寸の連絡があったら言ってくれよ」
「ああ……やめて……、やめてよ、もう……」

 両手で顔を覆い隠す母を尻目に、内心、ホッとしていた。

 この人はここまで娘がどうやって生きてきたのか、不思議に思わないのだろうか。最後に父と会った時に渡された金を少しずつ使い、切り詰めて切り詰めて、何とか今まで食い繋いできた。しかしそれがもう、底をつきかけている。制服を買う金なんか捻出できそうになく、どうしようか困っていたところだった。

「それからブラも」
 どうやらオッサンは、この家の一切の面倒を見るつもりのようだったから、この際言えるものは全部言ってやろうと、「前の学校で保健の先生に言われたんだ。今のは体に合ってなくて痛い」

 お母さんに話してちゃんと成長に合ったものを買ってもらいなさい。なけなしの金で買った安物を使っていると、養護教諭がそう耳打ちをした。生理用品はタダでくれるのに、そんな心配もしてくれるのなら学校から母に言ってほしかった。我が事ながら、ただ食べるだけでは事足らず、女の子一人が成長するためには、いろいろと金がかかるのだ。

「じゃ、今度──」

 オッサンが立派に育ちつつある胸を一瞥してから口を開こうとすると、

「このブスッ、いいかげんにしろ!!」

 母が立ち上がり、割り箸を投げつけてきた。さすがにオッサンが抱きとめる。母は罵声を放ちながら、醤油皿を払い、湯呑みを倒し、やがてオッサンの方を振り返ると、肩に顔を埋めて声を上げて泣き始めた。

「もうやだ恥ずかしい……、なんなのこの子、ブスのくせに……」
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