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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第3章 器用さの問題
 結局、ローゼルは、ビスカスがきちんとした服装をした日には、自分達以外に誰も居ない時には横目で見ては胸騒ぎを抑えたり、誰かが居る時には他人の反応に腹を立てながらちらちら見つつ気にしていない振りを貫いたり、また誰も居なくなったら八つ当たりと当て擦りでうさを晴らしながらこっそり独り占めを堪能したり……という、複雑な浮き沈みの有る時間を過ごすのが常でした。
 そんな事ばかりしているのですから、大らかな父と長兄にはともかく、にっこり微笑みながら人の心の裏を突いて楽しむのが趣味という非常に嫌な性癖の有る次兄には「面倒臭い女」という烙印を、早々に押されておりました。

「お前、ビスカスをどうする積もりなんだ?」

 年頃になり見合いの話が来始めてから、ローゼルは兄に何度聞かれた事でしょう。

「ビスカス?どうして?むしろ、サクナ様とどうなりたいのかを聞いて欲しいものだけど」
「無駄だ。あいつがお前とどうにかなる事は、未来永劫、有り得無い。」
「……何よ、それ」

 長年の淡い想い人への気持ちを軽口めいて口にする度に容赦なくきっぱり打ち砕かれ、ローゼルの胸には怒りの炎が灯りました。

「お前は最初っから、あいつが女として見る範囲から完全に外れてるぞ。玩具を欲しがる子どもじゃ有るまいし、お前ももう少し大人になれ」
「余計なお世話よ」

 気を悪くしたローゼルがそっぽを向くと、タンム卿は溜息を吐きました。

「やれやれ。いつか我が儘のしっぺ返しがくるぞ。賭けたって良い」

 そんなやり取りなど、兄も妹も、すっかり忘れておりました……が。
 その時の賭けの結果が、今分かろうとしておりました。


     *     *     *


「リアン?滞在中は、このお部屋を使って下さいな」

 父に命じられたローゼルは、侍女とリアンの連れて来た従者を引き連れて、彼が滞在する客間に一同を案内致しました。

「ありがとう、ロゼ姉さん」
「何か必要なものが有ったら、遠慮なくおっしゃって頂戴ね……とりあえず、お父様の用事が終わるまで、こちらでお茶にしましょうか?」

 ローゼルが命じると侍女は一旦部屋から下がり、リアンの従者も一緒に部屋を出て行きました。
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