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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第4章 仲直りの問題
 ローゼルはビスカスへの侮辱とも取れる義母の発言に、憤りました。

「リアンより縁は薄いですが、ビスカスも亡くなった私の母の遠戚です。事情が有って家で引き取る事になり、働いてくれて居るだけで、きちんと素性の知れている、仕事熱心で職務には真面目な、信頼出来る人間です」

 そっぽを向いた義母に、ふん、と鼻で笑われて、ローゼルはカッとなりました。
    
「それに、今迄ずっと、家に尽くしてくれているのですよ?感謝こそすれ……私がビスカスと婚約したら、家の恥だなんて」

「あら、あなた、そこに居たの?」
「えっ」

 義母の楽しげですらある声でローゼルが振り向くと、ビスカスが立っておりました。

(ビスカス?!いつから居たのよっ……!)

 ローゼルの動揺を余所に、ビスカスは平然と口を開きました。

「奥方様。旦那様がお呼びで御座います」
「あらあら、何かしら?ではね、ローゼル。よーーーく、考えるのよ。大事なこの家の一人娘の、あなたの未来の事ですからね」

 いそいそと去って行く義母を視線で射抜いてやりたい位の気持ちで見詰めていたら、ビスカスがさらりと言いました。

「お嬢様も、リアン様がお呼びですよ。お帰りを心待ちにしておられましたから」
「ビスカス、違うの。今のはっ」
「何の事でしょう」

 ビスカスの淡々とした言葉に、ローゼルは胸に何かが刺さった様に感じました。

「私は、特に何も聞いておりませんが」
「……ビスカス……二人だけの時は、普通に話してくれて良いのよ?」
「お嬢様。お嬢様の御付だった人間の品性は、お嬢様の評判に関わります」

(御付、だった)

 それを過去形で告げられて、ローゼルは軽い衝撃を受けました。

「今後の為にもリアン様には、お嬢様に良い印象を持って頂きたいですからね。未来の妻の周りに下品な人間が居る事を、リアン様が喜ばれるとは思えません」

 ビスカスはそこで言葉を切ると、ビスカスらしからぬ、まるでサクナの屋敷の家令の様な形通りの笑みを浮かべました。

「私は、こちらで失礼致します。私がお部屋までご一緒しない方が、リアン様は喜ばれるでしょう」

 お辞儀をして遠ざかって行くビスカスに、ローゼルは、何も言えませんでした。
 スグリ姫が願ってくれた「仲直り」は、ますます遠ざかって行きました。
 ローゼルは唇を噛んで、固く両手を握り締めました。
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