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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第5章 慣れの問題
「リアン、寒くない?」
「全然。僕をどこから来たと思ってるの?」
「それもそうね」
よく晴れた冬の日。
ローゼルはリアンに、庭を案内しておりました。
「やっぱり、南は良いなあ。冬でも咲く花が有るんだね」
「ええ。数は少ないけれど、お母様がお世話してらした頃から、花が絶えない様にしてあるのよ」
ローゼルは母が元気だった頃、母とビスカスと三人で庭師に教わり、庭の手入れをした事を思い出しました。ローゼルは気儘にあちこち気を散らし、ビスカスはすぐに何かを見つけては行方不明になるローゼルのお守りで、ほとんど母が一人で手入れをしていた様な物です。
それなのに今大人になって庭を見ると、この花はいつ咲くとか、この木はいつ剪定していつ肥料をやるのだとか、リアンに説明できるのが不思議でした。母のしていた事を見ていて、いつの間にか憶えていたのでしょう。もしかしたらビスカスも同じ様に憶えているのかしらと、ローゼルはふと思いました。
「叔母様は、お優しくてお綺麗な方だったよね」
「そうね。自慢のお母様よ」
「ロゼが、美しく大きくなって……僕と結婚することを、叔母様も喜んで下さってると良いな」
無邪気なリアンの言葉に、ローゼルは微笑みました。母が今も生きていたら自分の結婚にどんな事を言ってくれただろうかと思うと、亡くなって何年も経った今でも、仄かな淋しさが沸いてきます。
ローゼルが物思いに耽っていると、散策していたリアンがはしゃいだ声を上げました。
「ロゼ、薔薇だ!」
「ええ。その辺りは、冬薔薇が植えてあるの。たくさんは無いのだけど」
ローゼルはリアンの弾んだ声に誘われて明るい声で答えながら、冬薔薇の咲いている一角に足を向けました。かさかさと枯れ葉を踏む下に柔らかい土の感触が感じられ、歩く度にほんのり温かい様な、草木と土の匂いがします。最近気分が沈みがちだったローゼルは深呼吸して青空を見上げ、にっこりと微笑みました。
「ロゼ、見て、こっち!」
のんびりしていたローゼルに、焦れたのでしょうか。リアンが待ち切れない様に、ローゼルの手首を引っ張りました。
「痛っ!」
手を掴まれた力の強さに、ローゼルは思わず顔を歪ませました。