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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第5章 慣れの問題
「ああ、ごめん。つい」
「いえ……大丈夫よ」

 ローゼルは手首が弱く、強く握られたり引かれたりすると、痛みを感じる事があります。小さい頃には何度も肩や肘を外した事が有り、医者に嵌めて貰っているうちに、母とビスカスが嵌め方を憶えてしまった程です。皮膚も見た目よりも薄いのか、痣になりやすい体質でもあります。
 その話はリアンにもしたのですが、初日から何度か、リアンはローゼルの弱点を痛ませておりました。わざとではなく、癖なのでしょう。男兄弟の末っ子で、自分に注目を集め慣れたリアンは、容姿に似合わず手荒で強引な面が有りました。

「ごめんね、ロゼ。痛かった?じゃあ、これはお詫びだ」
「リアンっ、外よ!」
「外だって構わないだろ、二人きりになれる機会が少ないんだから……。いつなら、良いって言うの?」

 ローゼルに口づけるのを遮られたリアンは、不満そうに膨れて見せて、ローゼルを強引に抱き締めました。

「っ……苦しいわ、リアン」
「ロゼ。僕はもう、姉さんの婚約者なんだよ?初々しく恥じらう姉さんも素敵だけど、僕は恋人として、全てに触れて、手に入れたいんだ。……ロゼは僕と夫婦になるのだから、こういう事にも、段々、慣れて貰わないとね」
「慣れる……」

 ローゼルは身を固くして抱き締められながら、ぼんやりビスカスの事を思い出しました。ローゼルにとっての今までの家族以外の親しい殿方の基準は、ビスカスだったからです。
 仕事が仕事ですから、リアンよりもビスカスの方が力は強いはずでしたが、ビスカスと一緒に居た時に痛い思いをしたことなど、一度もありません。

(やっぱり、女として扱われては居なかったという事なのね)

 ローゼルは、ひっそり唇を噛みました。
 ビスカスが決して自分を傷付けなかった事が、逆にローゼルの胸を痛ませました。リアンとの見合いの話が進む前までは、それを不思議にも思わなかったのです。

 リアンは、ローゼルの恋人として彼女の全てに触れたいのだと、はっきり言いました。そう思っているためなのか、ローゼルが触れられることが苦手な場所や肌が弱くて傷付きやすい場所にも、躊躇なく触れて来ます。嫌なので止めて欲しいと何度か言ってはみましたが、慣れの問題だと笑って聞き流されました。なのでローゼルはほんの数日で、そう思うのは自分の我が儘のせいなのだと考える様になっておりました。
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