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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第5章 慣れの問題
それに対してビスカスは、ローゼルにその様に強引に触れたことは有りません。痛いとも嫌だとも思った事が無いのですから、そのような場所には触れたことも無いのでしょう。
ローゼルはそれを、ビスカスが自分を女として見ていないからで、リアンはそうではないからなのだと思い込みました。
ローゼルの母が存命だったら、義姉があんな事になっていなければ、スグリ姫が都に戻って居なければーー。
気安く相談できて信頼できる女性が近くに居れば、ローゼルの気持ちも違っていたかもしれません。
見合いは後継問題と絡んでいるので、誰彼構わず軽々しく口に出す事は出来ません。話せる相手は、限られていました。
女性でなくとも相談できる誰かが居れば良かったのでしょうが、仕事に出ない今、近くに居る親しい男性は、全員見合いと何かの関わりのある人ばかりです。たとえ相談したとしても我が儘だと言われるだけだろうと、ローゼルは口を閉ざしておりました。
* * *
庭の散策を終えリアンと別れて部屋に戻ったローゼルは、しばらくぼうっとしておりました。
『段々、慣れて貰わないとね』
リアンの言葉を思い出すと不意に急き上げるように涙が浮かび、ローゼルは驚きました。
(私、どうして泣いてるの)
ローゼルは、美しく賢く健康で、人が羨む様な恵まれた境遇に居る女性です。明るく容姿端麗で彼女を長年愛している従兄弟と婚約したばかりです。裕福な家で暮らしに困った事も有りません。母は亡くなっていますが、父や兄や使用人や友人が、ローゼルを愛してくれています。
ほんの少し我が儘が通らない位で、何を泣くことが有るのでしょうか。
そう思ってみても涙は止まらず、ローゼルは寝台に突っ伏して子どものように泣きました。
(痛いのも、嫌だと思ってしまうのも、いつか、慣れるのかしら)
こんな風に思ってしまうのは強引に何かをされる事が好きでは無い自分の我が儘な性格のせいなのだ、とローゼルはまた思いました。