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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第6章 我慢の問題
「サクナ様!」
「よお、しばらく振りだな。元気か?」
見合いの話が進み、結婚についての決定をしなければならない日まであと数日という日、ローゼルの部屋にサクナが訪ねて参りました。
ローゼルは見合いが始まって以来、サクナの屋敷での仕事を休んでいます。サクナの顔を見るのは、久し振りでした。
「ありがとう、元気にしてますわ!今日は、どうなさったの?」
「品物を納めるついでに、お前に頼みが有って来た」
「私に、頼み?」
「入ってもいいか?……二人きりじゃあ、お相手が妬くか」
「大丈夫よ!リアンが妬くような事、サクナ様がスグリ様以外にする訳無いじゃないの……どうぞ、お入りになって」
ローゼルは、笑いながらサクナを招き入れました。憂い事を忘れて心から笑ったのは、何日振りかの事でした。
「お言葉に甘えて、邪魔するぞ……有り難え、こいつが無駄にならずに済んだ」
サクナは陰に隠していたワゴンをローゼルに見せて、にやりと笑ってみせました。
「あら、お茶ですの?」
「ああ。新しい配合だ、試してみてくれねぇか」
新しく作った女性向けの品物を試して評価や分析をするのは、ローゼルの仕事の一つでした。ここには何も道具が無いので、飲んで味を見て感想を言うことしか出来ませんが、しばらく振りに頼まれた仕事は、ローゼルの気分を引き立てました。
サクナは部屋に落ち着くと、お茶の出る時間を計ってしばらく待ちました。それからお茶をカップに注いで、ローゼルの前に置きました。
サクナは果物を扱わせたら、右に出るものは居ない天才です。手先も器用で、果物細工の腕は子どもの頃から大人を唸らせる程でした。
そんなサクナが手際よく美しい所作でお茶を淹れるのを眺めていたローゼルは、先日のビスカスとポットの静かな格闘を思い出し、思わずくすりと笑いました。
「頂きます……良い香りね」
ローゼルはお茶を手に取って、立ち上る湯気の香りを嗅ぎました。それからカップに唇を付け、お茶を一口飲みました。
「……美味しいわ……!!」
そのお茶は、サクナが納めてローゼルが日々飲んでいるいつものお茶と、さほど味が違う訳では有りませんでした。ただ、口に入れた時に広がる香りが、いつもとほんの少し違っていました。その香りの為なのか、ローゼルにはそのお茶が、塞ぎがちで淀んだ体に染み込む様に感じられました。