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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第6章 我慢の問題
「済まねぇな。スグリが居りゃあ、聞いてやれるんだろうが……結婚前の女の気持ちなんざ、所詮男じゃ分からねぇからな」
「いいえ。落ち着くお茶を飲ませて下さっただけで、十分ありがたいですわ」
「……そうか」
サクナは窓の外を見て、何か考えている様でした。
「ローゼル」
「はい?」
「スグリが居りゃあ、こう言うんじゃねぇかって思うんだが」
サクナは一旦目を閉じて腕を組み、また目を開けてから言いました。
「結婚は、一時の事じゃ無ぇぞ。これから一生続くんだ。俺達だって上手く行かねぇ事ぁ有る。お互いが少しずつ相手を思って譲り合って、折り合いを付ける方法を確かめながら、今までやって来てるんだ」
「そう……」
ローゼルはサクナの言葉を、サクナの言う通りスグリ姫に聞かされている様な、不思議な気持ちで聞きました。
サクナとスグリ姫にも上手くいかない時は有るのだと言う事は、ローゼルには意外でした。生まれ育った土地を遠く離れて嫁ごうと言うほどの恋に落ちた、これ以上仲の良い夫婦は居ないだろうと思える様な二人にも、波風が立たない訳では無いのです。
「お前、自分だけが我慢したら何とかなると思ってねえか?」
「え……」
「余所の家の事情に首突っ込むみてぇな事は、言いたくねぇんだが……今のお前は、萎れかけて下向いちまってる薔薇みてぇだぞ。そんなんじゃ結婚が壊れる前に、お前が壊れちまうだろうが」
サクナはワゴンに置いていた箱の中から、いかにも試作品然とした袋に入った干し果物らしき物を取り出して、ローゼルの前に置きました。
「試作品の一部だ。お前にやるよ」
「え?頂いても、宜しいんですの?」
「ああ。その代わりと言っちゃあ何だが、茶ぁ飲んで落ち着いたら、お相手と、きちんと、よーく、話してみろ。……邪魔したな。味見してくれて、助かった」
サクナはじゃあな、と立ち上がり、ワゴンと共に部屋を去ろうとしながら、独り言の様に呟きました。
「……実を言うと、もっと他に話してみて欲しい奴も居るんだが……そりゃあ本当に、余計なお節介でしか無ぇからな」