この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第7章 甘え方の問題
ローゼルは、一人になりたかったのです。
考えは上手く纏まらず、どうしていいか途方に暮れそうになった所で、扉を叩く音がしました。
「はい?」
「失礼致します」
部屋を訪ねて来た侍女は、深々とお辞儀をして口を開きました。
「お嬢様、リアン様。タンム様が、リアン様をお呼びする様にと仰っていますが、いかが致しましょう?」
「……お兄様?」
「タンム兄さんが?」
「はい」
侍女は頷き、リアンは少し眉を寄せて考えていましたが、程なくローゼルの方を向きました。
「ごめんね、ロゼ。僕、行かなきゃ」
「ええ」
「ゆっくり休んで。明日はいつもの元気なロゼに会いたいな」
リアンが屈み込んで頬に口づけようとした時、ローゼルの体はぴくりと強張りました。リアンはそれに気が付くことも、特に気にする事も無く、両方の頬に口づけて、じゃあね、と去って行きました。
一人になったローゼルは、深い溜め息を吐きました。それからブランケットを体に掛けて、長椅子に横になりました。
(何日振りかしら……ビスカスと目が合ったのも、面倒を見て貰ったのも)
一人でぼんやりしていると、そんな事が頭に浮かんで来ます。
目を閉じると、ゆっくり背中を叩いてくれた手や、自分でどうする事も出来ない得体の知れない恐怖を落ち着かせてくれたのんびりした声が、まだそこに有るかの様に思い出されます。
ローゼルが落ち着いたのを確かめてから去って行ったビスカスを思い出して、目の奥が熱くなりました。
ビスカスは、眉を寄せて険しい顔をしていました。久し振りにローゼルの面倒に巻き込まれて、迷惑に思っていたのかもしれません。
(……ビスカスに、頼っちゃ駄目よ。慣れたら、きっと平気になるわ)
ローゼルは狭い長椅子で、寝返りを打ちました。
(早く、慣れないと……だって、ビスカスを頼りにしている人は、他にちゃんと居るんですもの。それに)
ーーそれに、護衛を解かれて自分付きを離れただけでなく、ここからさえも、居なくなる日が来るのだから。
その言葉は頭の中で形作られる前に、無理矢理掻き消されました。
「……う……っ……」
ローゼルが頼る事が出来て、遠慮などせず思い切り甘えられて、今ここに居て欲しいと思うのは。
その答えは堪えた嗚咽と共に、ローゼルの胸の奥底に、無理矢理押し込められました。