この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第8章 オレンジの問題
正式に婚約の決まる日が、近付きました。
婚約決定の当日を内々で婚約披露を行う婚約式とする事になり、その後初夜を済ませた後に、仮の婚礼を行う事になりました。
婚礼よりも初夜が先なのは、北の地の慣例を取り入れた結果です。北では婚約前に交わりを結ぶ慣例が有るため、リアンはそれを望みましたが、ローゼルはこの地では婚礼後に初夜を迎える慣例なので、せめて折衷で取り入れて欲しいと主張しました。結果的に、婚約までは清い体で居ることについてはローゼルの希望を、婚礼前に初夜を迎える事についてはリアンの希望を取り入れる事で折り合いが着き、婚約の日に初夜を持つ事になったのです。
リアンは夫となった後に一旦故郷に帰り、お互い新生活の準備を整えて、北の地からの交通に支障の無くなる時期に、正式に婚礼の儀式が行われる予定です。
婚約に向けての段取りは、着々と進んで行きました。
* * *
「お嬢様。こちらでお決めになって宜しいですか?」
ローゼルは婚約式のドレスを新調するために、仕立て屋を家に呼んでおりました。色合いの希望を伝えて生地を幾つか持って来させて、気に入った物を体に当てて試し、どのような形にするかを相談して決めるのです。
衣装選びには、リアンも同席しておりました。
「ええ。私はこれが良いと思うけど……どうかしら、リアン」
ローゼルが選んだのは、鮮やかな夏の空の色の生地でした。森の中の様な濃い緑の生地と迷った末に空色を選んだローゼルは、長椅子の背もたれに寄りかかって埋まる様にして衣装選びを眺めている、未来の夫に意見を求めました。
「うーん……ちょっと、地味じゃない?」
「そうかしら?色が鮮やかだから、地味ではないと思うのだけど」
空色は、ローゼルに良く似合いました。生地は上質で、この地ならではの刺繍が一面に施されており、豪奢な印象を与えます。婚約式のドレスを仕立てるには、申し分ない品物です。
けれど、リアンはローゼルの言葉を聞いて、不服そうに口を尖らせました。