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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第8章 オレンジの問題

「僕は、もう少し華やかなドレスが良いな。最初にここに着いた日の様な、ああいう色の生地は無いの?あれは、ロゼに凄く似合っていたよ」

 リアンに聞かれて、ローゼルは口籠もりました。
 到着の日に着ていたドレスは、燃える様なオレンジ色でした。
 それは確かにローゼルにとても良く似合っていましたが、今日はそれに似た色の生地は、持って来させておりません。今日仕立て屋に持って来る様に頼んだのは、寒色系の生地だけでした。

「誉めて下さって、有り難う。今回は、正式な婚約式ですもの。奥様らしく落ち着いた色を着たくて……そういう色しか頼んでないの」
「え!どうして?!残念だなあ」
「ローゼル様」

 二人の会話に、仕立て屋が微笑みながら口を挟みました。

「実は、明るい色も、一反だけ持って来て居りまして」
「え?」
「新作で上がって参りました生地が、ローゼル様にぴったりに思えましたもので……宜しかったら、お試しになって頂けませんか」

 仕立て屋が取り出してきたのは、朝焼けの空の様なオレンジ色の生地でした。全面刺繍ではなく、金糸銀糸の刺繍によって、唐草の様な複雑な模様が描かれております。空色の生地に勝るとも劣らぬ豪奢さは、婚約式に相応しいと言えました。

「ロゼ、これが良いよ!!とっても素敵だ……きっと、よく似合う」
「いいえ」

 仕立て屋とリアンの満面の笑顔での勧めを、ローゼルは固い表情で跳ね付けました。

「婚約式では、オレンジは着ないわ」
「ロゼ!」
「ローゼル様」

 ローゼルのきっぱりとした物言いに、リアンはムッとして、仕立て屋は困惑しました。

 オレンジはローゼルが好んで纏う色ですし、良く似合う色です。今までも、大きな行事の時のドレスには、オレンジを良く選んでおりました。その為、仕立て屋は気を利かせて、新作を持って来た積もりだったのですが。
 ローゼルは二人の反応に小さく小さく溜め息を吐いて、オレンジの生地に目をやりました。
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