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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第8章 オレンジの問題
「リアン?私は、婚約式は落ち着いた色のドレスにして、婚礼のドレスは白にしたいと思っているの」
「どうして?ロゼにしては、随分地味じゃない?オレンジとか、それが無理なら黄色とか赤とか……僕の奥様はこんなに明るくて華やかで美しいんだって事を、皆に見せて自慢したいな」
駄々っ子の様に言い張るリアンに向かって、ローゼルはひっそりした微笑みを浮かべました。
「……私は、貴方と結ばれて北の地と新たなご縁を結ぶという事を、ドレスの色でも皆さんにお伝えしたいと思っているの」
「……なるほど!そう言う事なのか!」
ローゼルの説明に、リアンはぱっと笑顔になりました。
「確かに、僕の地元は、オレンジって感じじゃ無いからね!今日有る生地は、空の色と、森の色と、山々の色と、土の色……かな。
それで、婚礼のドレスは、雪の色?」
「雪と、氷と百合の色よ。麗しい旦那様」
リアンが麗氷の百合と呼ばれている事になぞらえて告げると、リアンはにっこり笑ってローゼルの頬に口づけました。
「嬉しいなあ。それなら、この色が良いや。……この空色も、とてもよく似合うしね。婚約式が、楽しみだ」
リアンの言葉を聞き、二人が仲直りした様子を見て、仕立て屋はほっとした顔になりました。言い合いの元になったオレンジの生地の包みはさっさと仕舞い、ドレスの絵が描いてある見本帳を取り出しました。
リアンが興味深そうにそれを眺めている間に、仕立て屋はローゼルの肩に掛けた布地を外して畳み、リアンの隣で見本帳を見るように促しました。
ローゼルはリアンの向かいに座ると、一緒に見本帳を覗き込みました。
(……オレンジを着るのは、気が進まないわ……もう、オレンジの服は、一生着ないで居たいくらい……)
ローゼルはドレスの形について話し合う微笑みの底に、別の気持ちを抱いておりました。
(一生は、無理かもしれないけど……せめて婚礼が終わるまでだけでも、オレンジ色は、絶対着ないわ)
晴れの日の衣装を決めるローゼルの心に重石の様に沈んでいるのは、諦めに良く似た何かでありました。