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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第9章 初夜の問題
 売り物として作られる物は別ですが、この地で男性が女性に贈る干し果物は、求愛の印とされています。会えない時にも見て、香って、自分を思い出して欲しいと言う、願いを込めて贈る物なのです。
 ローゼルは受け取った瓶を眺めているうちに、胸の奥が熱くなって、何かがせり上がってくる様に感じました。思わず目を閉じるとこの品の作り手の姿が浮かんで来ましたが、ローゼルはそれを掻き消す様にぎゅっと目を閉じました。

(馬鹿ね、私。これは仕事で作った物で、私の為に作られた訳じゃ無いのよ?だって、ちゃんとお相手が居るんだもの。でも、)

「……嬉しい……大事にするわ、ありがとう……」

 小瓶を両手で包む様にして儚げに微笑むローゼルを見て、サクナはほんの少し痛ましげな表情を浮かべました。しかしそれは一瞬だけで、サクナはからかう様な口調で軽口を叩きました。

「俺がスグリと飲むからって譲って貰ったんだが、考えてみりゃお前が飲む方が道理だよなあ。そいつぁ貴重品だぞ?もうビスカスは干し果物は作らねぇかもしれねぇからな」
「え?」
「あいつぁここを辞めんだろ?辞めたらウチにもそうそう来れねぇし、良い思い出になったって言ってたぞ」
「そう……そんな貴重品、私が頂いて良かったの?」
「配合は聞いたからな、似たもんは作れる。だが、ビスカスが作った試作品は、それで全部だ。ウチで働かねぇかって誘ったんだが、断られた。長年ここに居たからな。しばらくはふらっと旅でもして、気に入った所に居着いちゃ気ままに働く暮らしがしてぇらしいぞ」
「そうなのね……」

 ローゼルの胸が、ちくりと痛みました。
 ビスカスとは話す機会が少なくなって居た為に、今後どうしたいかと言った様な事は、聞かされて居りませんでした。
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