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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第9章 初夜の問題
領主家を辞めたとしてもサクナの屋敷で働く事になっていたら、時々はビスカスに会えたでしょう。
その可能性も無くなった上、この地も離れるのであれば、ビスカスがここを出たら次に会えるのは、いつになるのでしょうか。
「余計な世話かも知れねぇが、笑顔で見送ってやってくれ。言うまでも無ぇ事だろうが、あいつぁお前が幸せになる事だけを願って、今まで長年仕えて来たんだ。最後ぐれぇ報いてやってくれ」
「そうね。そうよね……有り難う」
(余計なお世話だと思うのだけど、黙ってられないわ)
サクナの言葉を聞いたローゼルの脳裏に、またスグリ姫の顔が浮かびました。
「……スグリ様が」
「あん?」
「スグリ様がお戻りになる前に、私に、同じ様なことをおっしゃったわ。ビスカスと、仲直りしてって。余計なお世話だろうけど、黙ってられないって」
「……そうか」
「本当に、似たものご夫婦だわね」
「そりゃ、光栄だな」
ローゼルの言葉を聞いたサクナは、照れた様な微笑みを口元に浮かべながら、お茶を飲みました。それは、愛おしい者を想っている事が見ている側にも伝わるような、温かく柔らかい微笑みでした。
(私にも、いつか……リアンを思って、こんな風に穏やかに微笑む事が出来る日が、来るのかしら……)
「ん?どうかしたか?」
「……いいえ。……仲直りかどうかは、分からないけれど……ビスカスは、笑って送り出しますわ」
「ああ」
「本当に、色々、有り難う。スグリ様にも、御礼を伝えて下さいね」
両手で握り締めていた小瓶をそっとテーブルの上に置いたローゼルは、笑顔のままで目を伏せました。
そしてゆっくりとカップを手に取って、残りのお茶を飲みました。