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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第10章 痛みの問題
ローゼルは祖母に譲られてから、幾度もこの装飾品を身に着けました。しかし、薔薇の飾りは、まだ着けた事は有りません。それは、母が生きていたら、嫁ぐ時に譲られる筈だった品なのです。たとえ母が亡くなっていても、薔薇の飾りは娘の間は身に着けないと、ローゼルは決めておりました。
(お母様がいらしたら、なんておっしゃるかしら)
今日は婚約式であり、後継として認められる日です。もし母が生きていたら、自分の姉の息子であるリアンとの結婚を、喜んでくれた事でしょう。薔薇の飾りは、今日お着けなさいと贈られていたのかもしれません。
(……結婚式が終わるまで待たせて下さい、お母様)
ローゼルは、装飾品の箱の内張りの絹地の窪みに収まっている薔薇の飾りを指で撫でると、ぱたんと蓋を閉じました。
そろそろ、婚約者がここを訪れる時間です。
ローゼルは鏡の前の椅子から立ち上がると、手首の腕輪を確かめて、リアンを迎える準備をしました。
* * *
「おはよう、リアン。おはよう、ロゼ」
「おはようございます、タンム兄さん」
「おはよう御座います、お兄様」
タンム卿はビスカス達と打ち合わせをした後、ローゼルの部屋に来ていました。そこには既に婚約者のリアンも来ており、扉を開けて二人で迎えてくれました。
「よく眠れたか?」
「はい、ぐっすり」
「ええ、ちゃんと眠れたわ」
「……ロゼは少し顔色が良くない様だな。大丈夫か?」
「そんなこと有りませんわ、お兄様。ドレスの色のせいではなくて?」
そう笑われて、タンム卿は改めて妹の姿を見ました。確かに、ローゼルにしては珍しい青のドレスが、顔色に映っている様な気もします。
「大丈夫ですよ、タンム兄さん。ロゼにはさっき踊りの練習をお願いしましたけど、とても軽やかに踊って居ましたよ……ねえ、ロゼ」
「ええ」
ローゼルがにこりとリアンに笑いかけたので、タンム卿は自分の心配し過ぎだったか、と内心で苦笑しました。
「踊る準備は大丈夫か?」
「ええ、兄さん。兄さんとロゼに、特訓して貰いましたからね」
タンム卿はリアンが到着して以来何度かに渡って、この地の婚約や婚礼の儀式のあれこれについての説明をしておりました。
その中で、リアンはこれから結ばれる二人で行う、特別な踊りに興味を示しました。