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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第10章 痛みの問題

 それは、実りの季節に豊穣を祝う集まりで行われたのが発端だと言われている、素朴な踊りでした。男女で踊る際はお相手との相性を確かめる為に踊るとも言われていて、少々色っぽい振り付けが入っています。ローゼルはその踊りの大会で何度か優勝した事が有る、大変優れた踊り手でした。

 その事を知ったリアンは、自分もローゼルと踊ってみたいと言いました。
 確かに婚約や婚礼の席では、この踊りが余興の様に行われています。けれど、婚約や結婚をする二人のどちらかがこの地の出身でない場合は、行われないこともしばしばでした。素朴な踊りであっても、全く経験の無い者が突然踊るのは難しかったからです。特に、踊りをリードしなければならない男性がよその出身の場合は、省略するか、上手な誰かに代わりに踊って貰うのが通例でした。

「僕も、踊ってみたいよ。せっかくロゼと婚約するんだから」
「リアン、気持ちは嬉しいけど、日にちも無いし……只でさえ婚約と結婚の準備で忙しいのに、練習までしなくてはならなくなるのよ?」
「婚約式は、身内だけなんだろ?婚約式より、結婚式で踊って見せたいんだ。僕の家族も来るし、招待客も多いだろうし……婚約式では上手く行かなくても構わないから、憶える練習って意味で踊ってみたいな」

 リアンににこにこしながら言われると、ローゼルは強く断る事が出来ません。小さい頃から年上の従姉妹として言う事を聞いてきてあげた事も有りましたし、はっきりした理由無く断ると、納得するまで「どうして?」と聞かれ続けるからです。
 それに加えて、大人になった今では、人を自分なりの理詰めで説得して意見を通す事が上手になっておりました。ローゼルは今まで自分は理論的な方だと思っていましたが、リアンと話をしていると、自分の意見は何の根拠も無い思い付きで、根本から間違っているのではと思わされる事がよく有りました。

「リアン。本当に踊るつもりなら、ロゼの言う通り、毎日練習しなくてはいけないよ」

 ローゼルが困惑して口籠もっていると、説明をしていたタンム卿が提案をしました。

「それでも本気で踊りたいのなら、私が特訓してあげようか」
「本当?お願いしたいな!」
「お兄様!」

 ローゼルはリアンに簡単に約束をした兄を、咎める様な声を上げました。
 タンム卿は、それを予想して居たのでしょう。ローゼルの方を見て、苦笑しました。
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