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お嬢様の憂鬱(「ビスカスくんの下ネタ日記」サイドストーリー)
第10章 痛みの問題
(ビスカスっ……)
それは、ローゼルが上手く繕って隠せたと思っていた辛さも怖さも、丸ごとぶち壊す様な異議申し立てでした。ローゼルは、言えなかった「助けて」の代わりに、ビスカスにぎゅうっと抱き付きました。
ビスカスはローゼルに応える様に抱き締め返し、広間に向かって吠えました。
「お嬢様ご自身以上にお嬢様の事を気遣えねぇ様なお方を、お嬢様のお相手と認める事ぁ、出来やせん」
「……婚約の宣誓も異議申し立ても、とっくに終わってる」
荒っぽい異議申し立てに呼応するかの様に、怒りと嘲りを乗せた声が、ビスカスにぶつけられました。
「お前が認めようが認めまいが、ロゼは」
「リアン」
(……お祖母様)
リアンの怒声に、静かに、けれどぴしゃりと割って入ったのは、ローゼルの祖母である大奥様でした。
「この土地の婚約で踊りを行う意味を、知っているかしら?」
「お義祖母様」
「この地で踊りが婚礼に関する儀式に入っているのは、意味が有るんですよ。踊って互いに触れ合う事で、最後の相性の確認をするのです。あなた方は皆まだ若い。結婚は人生の終わりでは無いのよ。結ばれた先の長い人生が幸福な物で無くなるかもしれない要素があるのなら、考え直すのも、一つの選択なのですよ……ローゼル?」
名前を呼ばれてローゼルはぴくりと反応し、ビスカスの肩に埋めていた顔を上げました。
「貴女、今日はまだリアンと踊って居ないわね」
「嫌です」
ローゼルは大奥様の問い掛けが終わるが早いか、間髪居れずに答えました。
「ご免なさい、お祖母様。私、踊れません……痛いのも、怖いのも、もう、嫌っ……」
「ロゼ!」
ローゼルはリアンの方を見て、涙声で、けれどはっきりと言いました。
「リアン、ご免なさい。私の我が儘で振り回した事は、謝ります。でも、お見合いしてみて分かったの。貴方と一緒に居る間、私はずっと我慢をしていなくてはいけないって……貴方は、素晴らしい男性よ。家の為でもあると思って、頑張って慣れようとしたのだけれど、やっぱり、どうしても、慣れないの……」
ローゼルは何かを呟くと、ビスカスから離れました。そしてリアンの方を向き、目を見て、頭を下げました。
「本当に、申し訳ないのだけれど……婚約は、お断りさせて下さい」
「ロゼ……」
リアンは一瞬呆然としましたが、すぐさま口を開きました。