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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
「志津さん。渡り廊下でつながった先に離れがあります。そこに笙子さんのお荷物を運んでありますので、お支度をして差し上げて下さい」
岩倉は笙子の実家…一ノ瀬家から、笙子が心配で付いてきた女中頭の志津に指示を出した。
「かしこまりました。それでは失礼いたします」
志津は丁寧に頭を下げ、離れに向かった。

「へえ…駆け落ちみたいに来たのんに、女中さんを付けて寄越すなんて…東京のお金持ちは変わっとるねえ」
あっけらかんと感心する母、篤子に岩倉は苦笑いする。
「突然のことで、お母様には色々とご迷惑をおかけするかも知れません…」
殊勝に頭を下げる息子に篤子は笑ってみせた。
「あんたがお嫁さんめっけてきただけで、上等や。
しかもまあ…なんて綺麗なお嬢さんやろ。
…あんた、なかなか結婚せえへんから女嫌いやないかと思うていたけど…面食いやったんやな」
ふふ…と笑い、岩倉に肘鉄を食らわす篤子は絵に描いたような肝の座った商家の女将だ。
堂島の老舗の寒天問屋の末娘で、本人は
「うちなんか捨て育ちや。兄ちゃん姉ちゃんぎょうさんおったからだあれも構うてくれんと、年端のいかないねえやだけおっつけられて、いつの間にか大きくなってた口や」
そうけろりと言ってのける捌けた性格だ。

元々西陣織りの職人を抱える織物の商家に嫁ぎ、西洋生地に目をつけ、夫と二人繊維工場を興して一代で築き上げた女傑でもある。
口はいささか悪いが、腹には何もない。
情が濃くて世話焼きな男勝りな母を、岩倉は尊敬していた。

そんな母だから、岩倉は安心して打ち明けることが出来る。
「お母様、笙子さんは銀座の老舗宝飾店のお嬢さんです。
伽倻子さんの紹介で私が笙子さんのカウンセリングをしていました。
…それから…笙子さんは一ノ瀬家の養女です。
色々事情があって、孤児院から今のご両親に引き取られました。
けれど、誰よりも美しく嫋やかで気高く…そして繊細で心優しい…素晴らしい女性です。
お母様にも私たちの結婚を祝福していただけたらと思います」

篤子は黙って最後まで岩倉の言葉を聞いていた。
そして、肩を竦めて何でもないように言い放った。
「あんたがええと見染めたひとや。うちは何も言わん」
…けどなあ…と付け加える。
「…あんまり鼻の下を伸ばしていると、間抜けな貌になるさかいな、気ぃつけや」
そう言って、にやりと笑ったのだった。



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