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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
夜半に近づいた頃、笙子は志津に手伝ってもらいながら、白綸子の夜着に着替えていた。
普段はネグリジェで寝んでいたから、着物の寝巻きは着慣れない。
「お綺麗ですよ、お嬢様。…まあ、何て可憐なお嫁様でしょう…」
白いしごきの帯を締め上げながら、志津がため息を吐く。
「おぐしは…そのままにいたしましょうね。お綺麗なお髪を結い上げるのは勿体無いですからね」
志津は丹念に笙子の髪を柘植の櫛で梳かしてゆく。
…長く美しい黒髪を背中に垂らしたその様子は、まるで絵巻物に描かれた稚い深窓の姫君のようだ。
鏡に映る笙子の貌は白磁のように白く、やや青ざめてさえいた。
その黒眼勝ちな大きな瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそうに見えた。
五十を越えた年増の志津は察しも早い。
髪を梳りながら、その耳元で囁いた。
「…緊張されていらっしゃるのですね?…大丈夫です。
お嬢様は何もご案じなさることはございません。
すべてを旦那様に委ねて、お眼を閉じておられたらよろしいのですよ…」
「…え…?」
笙子は身を捩り、志津を振り返った。
眼を見張る笙子に志津は、励ますように微笑みかけた。
「大丈夫でございますよ。岩倉先生はお優しくして下さいます。
…お嬢様、旦那様がいらっしゃる前に、こちらをご覧になっていて下さいませ。
…お心のご準備が整うことでしょう…」
そっと手渡されたのは、古代紫の布張りの和綴じ本であった。
「…志津…これは…?」
それには答えず、支度をすべて終えた志津は
「…それでは、私はこれで失礼いたします。
…つつがなく…終えられますようにお祈りしておりますよ…」
そう優しく囁くと、一礼して部屋を出ていった。
「…志津…」
一人取り残された笙子は、恐る恐る手渡された古めかしい本を開いた。
「…あっ…」
…中身を見た瞬間、笙子の白い指がびくりと強張り、思わず本を膝に落としてしまう。
普段はネグリジェで寝んでいたから、着物の寝巻きは着慣れない。
「お綺麗ですよ、お嬢様。…まあ、何て可憐なお嫁様でしょう…」
白いしごきの帯を締め上げながら、志津がため息を吐く。
「おぐしは…そのままにいたしましょうね。お綺麗なお髪を結い上げるのは勿体無いですからね」
志津は丹念に笙子の髪を柘植の櫛で梳かしてゆく。
…長く美しい黒髪を背中に垂らしたその様子は、まるで絵巻物に描かれた稚い深窓の姫君のようだ。
鏡に映る笙子の貌は白磁のように白く、やや青ざめてさえいた。
その黒眼勝ちな大きな瞳は潤んでいて、今にも泣き出しそうに見えた。
五十を越えた年増の志津は察しも早い。
髪を梳りながら、その耳元で囁いた。
「…緊張されていらっしゃるのですね?…大丈夫です。
お嬢様は何もご案じなさることはございません。
すべてを旦那様に委ねて、お眼を閉じておられたらよろしいのですよ…」
「…え…?」
笙子は身を捩り、志津を振り返った。
眼を見張る笙子に志津は、励ますように微笑みかけた。
「大丈夫でございますよ。岩倉先生はお優しくして下さいます。
…お嬢様、旦那様がいらっしゃる前に、こちらをご覧になっていて下さいませ。
…お心のご準備が整うことでしょう…」
そっと手渡されたのは、古代紫の布張りの和綴じ本であった。
「…志津…これは…?」
それには答えず、支度をすべて終えた志津は
「…それでは、私はこれで失礼いたします。
…つつがなく…終えられますようにお祈りしておりますよ…」
そう優しく囁くと、一礼して部屋を出ていった。
「…志津…」
一人取り残された笙子は、恐る恐る手渡された古めかしい本を開いた。
「…あっ…」
…中身を見た瞬間、笙子の白い指がびくりと強張り、思わず本を膝に落としてしまう。