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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
家までは、岩倉に背負われて帰った。
慣れぬ下駄の鼻緒で、脚に切り傷ができたからだ。

「…恥ずかしい…です…」
岩倉の背中の上で、笙子は小さく呟く。
「大丈夫です。暗くて誰にも見えませんよ」
振り返り、微笑む岩倉の眼差しに胸がときめく。
貌が見えないのに安心して、岩倉の肩口に頬を埋めて甘える。
「…さっき、あの橋で何を考えていらしたのですか?」
「…貴女のことですよ。貴女をどうしたら幸せにして差し上げられるのかと、ずっと考えていました」
「…千紘さん…」
「ずっと考えて…どうしたら良いか…分からなくて…けれどやはり、貴女とずっといたいと思っていました」
…情けないですね…と、照れたような声が響いた。
笙子は黙って首を振り、その肩に頬を寄せる。
「嬉しいです。…それから…私は千紘さんといられたらそれだけで幸せなのです。だからもう叶っています」

岩倉は一瞬歩みを止め…小さくため息を吐いた。
そして、少し怒ったように呟いた。
「…早く帰ります。
…そうでないと、貴女に不埒なことをしてしまいそうになるから…」
不意に体温が上がり、胸の鼓動が高鳴る。
笙子は黙って岩倉にしがみついた。

見上げる夕闇の空には、一番星が輝き始めていた。
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