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花の輪舞曲
第1章 夜啼鳥の小夜曲
岩倉の清潔な美しい手が笙子の頬に優しく触れる。
「…寒いですか?京都の夜は花冷えしますからね」
ときめきと同時に男に対する畏怖めいた感情が襲い、逃げ出してしまいたい衝動に駆られる。
身を硬くする笙子の肩を岩倉は優しく引き寄せ、その引き締まった逞しい胸に柔らかく抱き込んだ。
まるで幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと語りかける。
「…怖がらなくて、いいのですよ。
私は、いきなり笙子さんと肉体的に結ばれようとは思っていません」
「…千紘さん…?」
岩倉の胸の中で、笙子はびくりと身体を震わせた。

…岩倉は、わかっていたのだ。
笙子が、性交に対する恐怖心を抱いていることを。
「貴女を怖がらせるようなことはしません。
安心してください。
貴女が私に身も心も…全てを委ねたくなるまで、私は待ちます。
…いつまでも…」
笙子はその美しい瞳を潤ませ、岩倉を見上げた。
「…千紘さん…」
岩倉の眼鏡をかけていない生の端正な眼差しに、温度を感じさせるやや官能的な色が灯る。
「ひとつずつ、レッスンしてゆきましょう」
「レッスン?」
そのまま顎を優しく捕らえられ、上向きにさせられる。
温かい吐息が唇を掠めたかと思うと…
「…まずはキスのレッスンです…」
「…あ…っ…」
…男は、柔らかく無垢な果実のような笙子の唇をしなやかに奪っていったのだ。


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