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女ざかりの恋の音色は
第13章 【番外編  完結】眩い光りの中で
「・・・・・さて、お酒も用意しないとね。理志さんに何飲むか聞いてきて。お父さんは・・・・・一応聞いてみて」

母に言われて芙実は二階へ向かった。
かれこれ一時間以上部屋にこもりっきりだった。
父の部屋は防音設備がととのっていて、バンド仲間が練習に訪れるほど機材もそろっていた。
部屋に近づくと、かすかに聴きなれたメロディーが流れてきた。
ノックをするが聴こえないのか、音楽が止まることはなかった。
芙実はそっと扉をあけて様子を伺った。
二人ともあぐらをかいて芙実に背を向けて座っていた。
スーツの上着を脱いで袖をまくった姿の理志が手をとめて楽譜をじっと見ている。
何度か弾いてみて、父がうんうんと頷いている。

「ポールってこのベース弾きながら歌うってすごいですよね。ベースだけなら簡単でも、このベースライン弾きながらこのメロディライン歌うとか俺、無理ですね」
「そうなんだよ!たまにさ、ビートルズの曲は簡単、ポールのやってることなんかたいしたことないとか言うやつがいるんだよ!まっったくわかってない!楽器ちゃんとやってたらすごさがわかるんだけどね」

二人でわいわいと楽しそうにしているところを覗き見して、芙実はそっと微笑んだ。

「・・・・・理志くん、ひょっとして私と話合わせるためにベースの練習してきた?」
「あー・・・・・。それはあります。でも、もともと好きなので、いつかまたやりたいと思ってました」
「・・・・・・・・」

父はいったんギターを降ろすと、少し恥ずかしそうに切り出した。

「この部屋ね。芙実が就職が決まって家を出るって時にね。妻が防音施してスタジオにしようって言ってきたんです。妻は、芙実がいなくなったら私が抜け殻みたいになると思ったみたいでね。代わりに打ち込めるものを用意してくれて。おかげでね、芙実がいなくて寂しいと感じることもなくなりましたよ。ギターはもちろん、ドラムも思いついた時に練習できるようになったもんだから、のめりこんじゃって」

芙実は父に家から通える会社に勤めるよう言われていたが、いい加減家を出たいと思っていた芙実は、就職難を理由に東京の会社ばかり受けていたのだった。
父は最期まで反対していたが、最後は母にも説得され諦めてくれた。母は父に娘以外に興味を向かせようとしたのだった。
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