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女ざかりの恋の音色は
第13章 【番外編 完結】眩い光りの中で
「芙実・・・・・・大丈夫?」
「だだだ、だめです!」
翌週、芙実は理志と二人で理志の家の玄関の前に立っていた。
「硬くなりすぎだって」
世田谷にある理志の実家に結婚の挨拶に来ていた。
今日のために挨拶の練習やマナーの勉強、服装やメイクの研究をしてきた。
しかし、それら全てが吹っ飛んでしまいそうな緊張感に芙実は襲われていた。
「さ、ささ、理志さん!どうですか!?私の格好!??」
芙実は手を広げて自分が来ているベージュのワンピースをもう一度確認した。
「いや、だから可愛いよ。もー、何回確認するの?大丈夫だってば」
理志は苦笑しながら芙実の手を引いた。玄関のドアを開けて芙実に入るように促す。
「おーい。来たよー」
(樫野芙実と申します。本日はお招き・・・・・じゃない、お時間を作ってくださいまして・・・・・・)
芙実は練習してきた挨拶を頭の中で反芻していた。
「はいはーい!」
ドタドタと大きな足音を立ててふくよかな背の低い女性が玄関へやってきた。
「芙実、俺の母親」
理志に言われて慌てて頭を下げる。
「わ、わた・・・・・樫野芙実で・・・・・・・」
「はいはい、あがってあがって!雨で大変だったわねえ!さあさあ!」
満面の笑みで理志の母は出迎えてくれた。暗闇の中で一気に電気が灯ったような明るさを感じた。
「本日は・・・・・・・」
理志の母はおいでおいでと言って先に行ってしまった。
玄関での挨拶をしそびれて芙実は戸惑ったまま停止した。
理志が噴き出す。
「だから言ったでしょ?挨拶の練習とか必要ないって。もう、普通にしていいから」
「・・・・・・・・」
そう言われて出来たら苦労はしない。芙実は靴を脱いで上がったあと、振り返って靴をきちんと揃えた。
靴箱の上に可愛らしいネコの置物が並んでいて、芙実の心を少しだけ和ませた。