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女ざかりの恋の音色は
第9章 誰にも見せたくない
一緒に会社を出ると、エントランスホールに受付の女性がソファに座っていた。
理志の姿を見て嬉しそうに立ち上がる。

高そうなワンピースと靴に、綺麗に巻いた髪を揺らして駆け寄ってくる。

華やかさやオーラといった、芙実には全くない要素をこうもふんだんに所持しているとは神様は不公平だと、神にやつあたりするしか術がなくなる。

(美人は生涯で二千万だか三千万だか得するというけど、真理なんだろうな・・・・・・・)

自分ももう少し女子力を上げなくてはと思い始めていた。

「あれ?飲みじゃないの?」
「蒼井さんが来るって聞いてたのに、なかなか来ないから迎えにきちゃいました」

女性は理志と肩を並べて歩き始めた。
そのうしろを芙実が、どうしたものかと戸惑いながらついていく。

「あーごめん。俺、行けないわ」
「えー?そんなぁ。蒼井さん来るっていうから、すごく楽しみにしてたのにぃ」

女性は芙実が存在していることなどすっかり頭にないみたいだ。
理志の腕を軽く摘んで行きましょうよぉと甘えている。

こんな可愛い子に、こんな風に言われたら十中八九断れない。自分が彼女のように甘えている姿を想像して、あまりの酷さに芙実は一人勝手に落ち込んだ。

「今から彼女が家に来るから。ごめんね」

女性は驚いて足を止めた。

「えっ・・・・・・。蒼井さん、彼女いるんですか?」
「うん。待たせてるから急がないといけないんだ。お疲れさま。樫野さん、行こ」

そこで初めて芙実の存在に気がついたように女性は芙実を見た。

理志を見つめていたキラキラした瞳がスっと冷めたのがわかった。

何、この冴えない女・・・・・・と心の中で思ってるのまで伝わってくる。

(うう・・・・・・キラキラ女子、怖い・・・・・・・)

「お、お疲れさまです・・・・・・・」

芙実の挨拶が終わる前に女性は走るように帰ってしまった。

理志は何事もなかったかのようにスタスタと歩いていく。
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