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女ざかりの恋の音色は
第12章 【番外編】くもり空と秋晴れの空と
芙実はこのやりとりをかつて何度も父親と繰り返したことを思い出した。
あの頃の鬱屈とした気持ちが蘇ってくる。

「・・・・・・私、理志さんに約束守ってもらえなくても、仕方ないって思えます。同じ仕事をしてるから大変さがわかるし・・・・。でも、だからって私まで行くなっていうのは違うと思う」
「テント泊じゃないならそんなこと言わない。彼女の心配して何が違うの?テント泊なんて、俺が一緒だから成立するイベントでしょ。だいたいテントの準備とか一人でどうするの?」
「大丈夫です。練習します」
「練習って・・・・・・。そこまでしなくてもいいでしょ。せめて一日だけにして、日帰りにしてよ」

芙実の心が暗くなる。楽しみにしていたし、ただでさえ理志と行けなくて残念なのに、自分まで行くなと言われて楽しみを奪われるのが納得できなかった。

同業だからといって約束をキャンセルされることが全く平気なわけじゃない。
文句こそ言わないが、積もりに積もったものはあるのだ。

「・・・・・じゃあ、福岡の友達と行こうかな」
「女の子二人だってダメに決まってる。ナンパされに行くようなもんじゃん」

芙実は明らかに不貞腐れた顔をした。電話だが伝わらないだろうが、二人の間の雰囲気が悪くなるのがわかる。

「・・・・・わかりました。じゃあ、父親と行きます」
「父親?」

もちろん父親となんか行くわけなかった。理志を納得させるための咄嗟の嘘だった。

「それなら文句ありませんか」
「文句って・・・・・つっかかる言い方するなぁ。俺だって残念に思ってるのに」

沈黙が流れる。付き合い始めてこんな風に険悪になるのは初めてだった。
いつもなら素直に理志の言葉が聞けるが、今日はなぜか出来なかった。

「とにかく、ぎりぎりまで頑張るから、お父さんに言うのもう少し待って」
「・・・・・・わかりました」

芙実は電話を切ってからもしばらくモヤモヤしたままだった。
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