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我が運命は君の手にあり
第5章 第五章
「おばあちゃんたら、ふふっ、そんな人はいないよ」
「そうなの? あら、もったいないこと。そろそろ結婚してもいい年じゃないの?」

信子が手を止めて冴子を見つめた。

「結婚? あはは、そうね、考えとく」
「ばあちゃんの事は心配しないでいいんだよ。自分の事だけを一番に考えてね」
「ありがと。大丈夫だよ」
「真吾はまだかねぇ……、お腹すかせてないといいんだけど」
「お父さんも大丈夫だよ。ねぇおばぁちゃん、ここが難しいんだけど、どうやって開くの?」

穏やかなひと時、ここではゆっくりと時間が流れ、夢も現実も同じ重さで漂っている。

「おばあちゃん、今楽しい?」
「楽しいわ。明日はね、爪にマニキアを塗ってくれるんだって」

華奢な手を冴子に差し出し、嬉しそうに微笑んだ。

「マニキュアでしょ?」
「ん、マニ、マニキ、ま、マニキア? ほほほっ、なんでもいいわよ」
「ふふっ、綺麗にしてもらってね」
「真吾はなんて言うかねぇ」
「きっと褒めてくれるよ」

信子の惚けに付き合っているうち、なぜだか悲しくなってきた。冴子は亡くなった父を写真でしか知らなかった。母に至っては、信子が写真ひとつ残さず処分していたため、顔はもちろん名前さえ知らない。
父の事以外多くを語ろうとしなかった祖母が重い口を開いたのは、冴子が中学生になってすぐ、初潮を迎えた頃だった。

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