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我が運命は君の手にあり
第5章 第五章
高級店に縁のない者でさえ一度は耳にした事のある老舗の寿司店で、二人は新鮮なネタに舌鼓を打っていた。
染井はこの店の常連らしく、なかなか手に入らないという日本酒を店主に勧められながらも、車で来たからと辞退した。

「私に遠慮はいらないよ」

ガラスの徳利を傾ける染井に慌てて盃を差し出す冴子。
口に含むと果実のような香りと甘みがふわりと広がっていく。上品な酸味とコクのある吟醸酒は舌によく馴染み、充足感とともに解放感をもたらした。

贅沢な時間だった。染井は饒舌で、気後れする冴子を会話の中心に添えてくれる。いつもそうだ。彼の側にいて疎外感を感じたことは一度もなかった。彼女はそこにいる事が許され、笑顔で迎えられた。染井の横にいる冴子を、誰も好奇の目で見ない。それを尾首にも出さない。それが彼の力でもあった。

食事を終え、丁寧に礼を言う冴子に、「君はいける口だな」と機嫌良くアクセルを踏む。

「とても美味しいお酒だったのでつい飲み過ぎました、お寿司も本当に美味しかったです」

ここからどこへ行くのかと気にはなったが、心地よい眠気が忍び寄ってくる。冴子は革張りのシートに身体を預け、静かな車内でゆったりと目を閉じた。


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