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我が運命は君の手にあり
第8章 第八章
「そんなわけないだろう。時江さんに会いに来たんだよ」

遼がむっとした顔で答えた。

「ご無沙汰しております」

言葉と行動を慎重に選びつつ、冴子は丁寧にお辞儀をした。染井が余計な事を言う筈がなかった。

「はははっ、うむ、少し雰囲気が変わった気がするが気のせいかな。ん? その菓子折りは何だね」
「は、はい……あの、栗羊羹です」

冴子は、つい染井の好物を選んでしまった事を後悔した。

「親父、失礼だろう。出掛けるなら早く……」
「ほほぅ、私の大好物じゃないか。 時江、私の分を残しておいてくれよ」
「かしこまりました」

玄関に向かった染井が足を止め振り向いた。

「私がいて驚いただろう。ちょっと忘れ物をしてね、取りに来ただけだったんだが、時江に君が来ると聞いてね。ははは、会えてよかったよ」
「旦那様、そろそろお時間が……」

染井は時江が並べた靴を履き、靴べらを手渡した。

「ゆっくりしていくといい。あぁ時江、今日は遅くなる、先に寝てなさい」
「はい、いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいませ」

冴子は胸を撫で下ろし、扉が閉まるまで頭を下げ続けた。

「さあ、すぐにお茶を入れますから応接間でゆっくりしていて下さい」

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