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我が運命は君の手にあり
第2章 第二章
見たこともない立派な門を前に、冴子は心底後悔していた。なぜデパートなんかに行ってしまったのか。なぜ生け花の展示場に足を踏み入れたのか。素通りしていたらこんな事にはならなかった。しかも二日続けて行くなんて。
今朝目覚めた時、悪い夢を見たのだと思った。だがバッグを確かめると、銀行の紙封筒に十七万円がきちんと入っていて思わず床にへたり込んだ。
「一度家に来なさい」
昨日、染井剛介への電話でそう言われ、否応なくATMに駆け込んだ冴子は、なけなしの金を用意した。
あとから手にした名刺の名前、染井遼に連絡する気はなかった。家元だというあの男の息子であることは間違いない。親切で言ってくれたのだろうが、後々迷惑がかかるに決まっている。直接本人に謝罪することが最良の手段だ。
だが冴子は電話での短いやり取りで、遼に連絡しなかったことを後悔した。耳に響いたあの声が、蛇に見入られた蛙のように冴子を身震いさせたからだ。
パート先に頼み込んで休みを取ったのはいいが、夜の仕事には間に合うだろうか。いくら弁償すればいいのか。休んだ時間の分だけ収入は減っていく。道々繰り返してきた後悔と落胆に大きな不安が加わった。
この豪邸に比べ、自分のこの格好はどうだ。昨日とたいして変わらない。これでは心証が悪いのではないか。菓子折りはこれでよかったのか。あの人の言った通り電話なんかするんじゃなかった。そのまま何もせず知らん顔していればこんな事には。
でも、でも……
冴子は、今更どうしようもない事ばかりを悔やみ続けた。
今朝目覚めた時、悪い夢を見たのだと思った。だがバッグを確かめると、銀行の紙封筒に十七万円がきちんと入っていて思わず床にへたり込んだ。
「一度家に来なさい」
昨日、染井剛介への電話でそう言われ、否応なくATMに駆け込んだ冴子は、なけなしの金を用意した。
あとから手にした名刺の名前、染井遼に連絡する気はなかった。家元だというあの男の息子であることは間違いない。親切で言ってくれたのだろうが、後々迷惑がかかるに決まっている。直接本人に謝罪することが最良の手段だ。
だが冴子は電話での短いやり取りで、遼に連絡しなかったことを後悔した。耳に響いたあの声が、蛇に見入られた蛙のように冴子を身震いさせたからだ。
パート先に頼み込んで休みを取ったのはいいが、夜の仕事には間に合うだろうか。いくら弁償すればいいのか。休んだ時間の分だけ収入は減っていく。道々繰り返してきた後悔と落胆に大きな不安が加わった。
この豪邸に比べ、自分のこの格好はどうだ。昨日とたいして変わらない。これでは心証が悪いのではないか。菓子折りはこれでよかったのか。あの人の言った通り電話なんかするんじゃなかった。そのまま何もせず知らん顔していればこんな事には。
でも、でも……
冴子は、今更どうしようもない事ばかりを悔やみ続けた。

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