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我が運命は君の手にあり
第8章 第八章
なぜ私に……と、冴子は聞かなかった。そんな質問で時江を探る必要がなかった。親しみとは違う感情で繋がっている、そんな間柄でいたかった。

一番のお気に入りとなった着物は、未だ着る機会に恵まれなかった。花展で着るには目立ち過ぎ、だからといって、染井との逢瀬に着るには、時江に見られているようで気が引けた。

「お仕事は慣れましたか?」
「はい、お陰さまで。時江さんのお陰です」
「旦那様のお陰ですよ」

ゆっくりと茶を味わいながら、冴子は遼が家元となってからの成果を話してみたくなった。

「じつは今、あるお仕事の成功に向けて、スタッフ一同とても張り切っているんです」
「……綾辺様からのお話ですね」

さらりと答える時江に驚いたが、冴子は「ご存じだったんですね」と膝の上で手を揃えた。

「はい、綾辺様と旦那様の間で、以前から話し合われていた事ですから」
「旦那様?」
「えぇ、旦那様が引退なさる数年前からのお話です。もちろんお家元には内密に」
「……そうだったんですか」

遼が知ったらどう思うだろう。冴子自身、知りたくない事実だった。

「旦那様は、常に染井流の将来を見据えていらっしゃいます。今度の事は、遼さんのお家元としてのお立場を確固たるのものにする為です」

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