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第11章 第十一章

「僕は彼女の唇に惹かれますね。あの厚みのある唇……凄くいい」

益田が脳内で冴子を辱しめていると思うと虫酸が走った。

「うん、じつに魅力的だ。……ですがお家元、やはりあなたは咲さんと一緒になるべきです」

「……今は誰もがそう言うでしょうね。それは理解できます、でも俺は焦っていません、腹を括っているんです。今は耐える時ですが、大した事ではありません。必ず彼女を幸せにします」

目の前の横断歩道を行き交う人々。二人は黙ってそれを眺めた。

「秋津さんは……、たとえあなたを愛しているとしても、結婚を望みはしないでしょう」

「……」

「結婚なんて針のむしろだ。やめた方がいい。あなたは何もわかってない、誰も幸せになりませんよ、問題を抱え込むだけだ」

そこまで言えるのは、益田が綾部豊に何か言い含められているに違いない。

「いいえ、誰よりもわかっています。あなたが綾部グループの息のかかったライターだという事も。……心配には及びません。仕事を投げ出したりはしません、必ず成功させますよ」