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我が運命は君の手にあり
第12章 第十二性
「凄い凄い、手慣れてますねぇ」
冴子は時江との時間を思い出していた。あの胸震わせるひと時は、いつも樟脳の匂いを伴っている。部屋の姿見や化粧台、箪笥の位置がはっきりと浮かび、そこに今も時江と自分がいた。
「野田さん、口紅ある?」
「ありますあります。舞ちゃん、私のバッグからポーチ出してくれる?」
「はーい」
冴子は受け取ったピンク色の口紅を、野田の小さな唇に重ねた。
「着物だともう少し赤い口紅がいいかも」
糸川が鏡を覗いて呟いた。
「うん、そうする」
二人は楽しげに頷き合った。
――女はひとりで泣くものですよ
時江に会いたかった。自分がいなくなる事を伝えたかった。そしてまた、同じ言葉で叱ってほしい。
――ほら、しゃんとして
「秋津さん、どうかしました?」
「え、あぁ、野田さんに見とれちゃった」
「馬子にも衣装ですよね」
「舞ちゃんたら、ひどーい」
明るい二人が眩しくて羨ましい。自分が今ここにいることを不思議に思う。そろそろ夢から覚める時間だ。
「さぁ、次は糸川さんの番よ」
「やったー」
冴子は時江との時間を思い出していた。あの胸震わせるひと時は、いつも樟脳の匂いを伴っている。部屋の姿見や化粧台、箪笥の位置がはっきりと浮かび、そこに今も時江と自分がいた。
「野田さん、口紅ある?」
「ありますあります。舞ちゃん、私のバッグからポーチ出してくれる?」
「はーい」
冴子は受け取ったピンク色の口紅を、野田の小さな唇に重ねた。
「着物だともう少し赤い口紅がいいかも」
糸川が鏡を覗いて呟いた。
「うん、そうする」
二人は楽しげに頷き合った。
――女はひとりで泣くものですよ
時江に会いたかった。自分がいなくなる事を伝えたかった。そしてまた、同じ言葉で叱ってほしい。
――ほら、しゃんとして
「秋津さん、どうかしました?」
「え、あぁ、野田さんに見とれちゃった」
「馬子にも衣装ですよね」
「舞ちゃんたら、ひどーい」
明るい二人が眩しくて羨ましい。自分が今ここにいることを不思議に思う。そろそろ夢から覚める時間だ。
「さぁ、次は糸川さんの番よ」
「やったー」