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我が運命は君の手にあり
第2章 第二章
いなくなりたかった、すべてを放り出して。
「やはり髪を上げましょう。ここに掛けてください」
冴子の遠慮を受け付けず、時江は化粧台の椅子を引く。言われるままに鏡の前に座った。着付けの腕が良いのか、初めての着物に息苦しさは感じられない。
狐色の地に白や青丹色の桐花文が浮かんだ晴れやかな小紋に紫根染めの帯。冴子は背筋を伸ばし、顎を引いた。
ゴムで結んでいた髪がほどかれ、慣れた手つきで夜会巻きが仕上がってゆく。
「あの、時江さんとお呼びしても」
「ええ、構いません」
「あの、この着物……、時江さんのお着物ですか?」
ヘアピンを差す手を止めずに時江は答える。
「いいえ、亡くなった奥様のお着物です」
「え……、そんな大切なものを……」
それには答えず、時江は髪の出来具合を確認している。
「口紅は持っていますか?」
「あ、リップクリームなら……」
時江は黙ったまま小引き出しを開けた。数本の口紅を繰り出して色を確かめると、そのうちの一本を選んだ。
「やはり髪を上げましょう。ここに掛けてください」
冴子の遠慮を受け付けず、時江は化粧台の椅子を引く。言われるままに鏡の前に座った。着付けの腕が良いのか、初めての着物に息苦しさは感じられない。
狐色の地に白や青丹色の桐花文が浮かんだ晴れやかな小紋に紫根染めの帯。冴子は背筋を伸ばし、顎を引いた。
ゴムで結んでいた髪がほどかれ、慣れた手つきで夜会巻きが仕上がってゆく。
「あの、時江さんとお呼びしても」
「ええ、構いません」
「あの、この着物……、時江さんのお着物ですか?」
ヘアピンを差す手を止めずに時江は答える。
「いいえ、亡くなった奥様のお着物です」
「え……、そんな大切なものを……」
それには答えず、時江は髪の出来具合を確認している。
「口紅は持っていますか?」
「あ、リップクリームなら……」
時江は黙ったまま小引き出しを開けた。数本の口紅を繰り出して色を確かめると、そのうちの一本を選んだ。