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我が運命は君の手にあり
第3章 第三章
彼女は従業員だ、いいのか本当に。
自分の立場を顧みたのは一瞬だった。目の前の女は腹を空かせたただの雌でしかなかった。誘惑の視線に我を忘れた彼は、激しい愛欲の渦に飛び込んだ。
優しい抱擁も、愛の言葉も、相手を刺激するわざとらしい台詞もなかった。互いの息づかいと喘ぎ声、擦れ合う音。赤く灯った照明の下で、女は汗ばんで微笑み、妖しく誘い、激しく乱れた。

あれは、酔いつぶれた夜の幻だったのか。目覚めた時、女の姿は消えていた。
熱い余韻と気不味さを抱えたままの次の日、恥じらいも、意味ありげな視線のひとつも寄越さない北沢に、少しの失望を覚えたが、一夜限りの戯れだったと理解し、以来平静を保って接してきた。

遼はその後、友人に紹介された数名の女性と交際したが、期待は尽く外れ、侘しさだけを積み重ねていく。熱のない不毛な付き合いが長く続く筈もなく、どれもすげなく別れを切り出して終わらせた。欲していたのは恋の相手ではなく、あの夜の女だった。
程なくして彼は、北沢が開業医と婚約した事を知った。

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