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我が運命は君の手にあり
第3章 第三章
「もしかして、お家元に?」と訊ねた北沢の瞳に嫉妬の色を見つけ、冴子は咄嗟の嘘で自分を守った。
賢くいなければならない。誰も私を庇ってなどくれないのだから。
不意にこちらを向いた北沢の微笑みに次の言葉を待った。

「開場前にお茶を入れてもらってもいいかしら、ひとつでいいわ」
「はい」

これまでの人生で、着物を贈られた事はもちろん、美しいと言われたこともなかった。右も左もわからない小娘に自信を持たせる為の方便だと知りつつも、染井に褒められた事が誇らしい。

あの家の門をくぐってから、そしてくぐる度に心がさざめいた。
染井の言動はどれも、年を重ねた男によくある洒落とからかいだと承知していた。それでも冴子の気持ちは木の葉のように揺れ動き、どこかへ捨て置いてきた甘美な欲望が、頭をもたげて喘ぎ始めていた。

「ありがとう。このお盆にのせて遼さんに持っていってくれる? 毎回開場前にはそうしてるの、落ち着くらしいわ」
「はい」

鎌倉彫の丸い盆に緑茶を注いだ紙コップをのせ、スタッフと雑談している遼のもとへ向かった。

「失礼します。遼さん、お茶をお持ちしました」

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