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我が運命は君の手にあり
第1章 第一章
炎は大きくなり、冴子の名を巻き込んで指先に迫ってきた。思わず手を離した遼は、地に落ちて灰になってゆく過去を見下ろした。

──遠い過去になってしまいました

(……それでいい)

居間にいる時江に「終わったよ」と小さく告げた。

「では、お食事にしましょう」

ひっそりと闇が迫ってくる。静けさを埋めてくれる時江の世間話も、今夜ばかりは耳に届かない。それを察した時江は口をつぐみ、彼の箸の進み具合を気にかけている。

来訪者に失礼が無いようにと、遼の母敦子が与えた小袖や小紋を、時江は今も大切に着回している。まとめた髪には白いものが目立ち、老いを感じさせるようになってはいたが、品の良いうりざね顔は、僅かに色気を留めている。

敦子に見込まれてここへ来てから、時江はずっと一人だった。周囲がすすめたいくつかの縁談も、すべてやんわりと断っていた。遼がそんな時江と父親との関係に疑問を持つようになったのは、成人したのち、次期家元として、周囲の期待を肌で感じるようになってからだった。

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