この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
我が運命は君の手にあり
第1章 第一章
炎は大きくなり、冴子の名を巻き込んで指先に迫ってきた。思わず手を離した遼は、地に落ちて灰になってゆく過去を見下ろした。
──遠い過去になってしまいました
(……それでいい)
居間にいる時江に「終わったよ」と小さく告げた。
「では、お食事にしましょう」
ひっそりと闇が迫ってくる。静けさを埋めてくれる時江の世間話も、今夜ばかりは耳に届かない。それを察した時江は口をつぐみ、彼の箸の進み具合を気にかけている。
来訪者に失礼が無いようにと、遼の母敦子が与えた小袖や小紋を、時江は今も大切に着回している。まとめた髪には白いものが目立ち、老いを感じさせるようになってはいたが、品の良いうりざね顔は、僅かに色気を留めている。
敦子に見込まれてここへ来てから、時江はずっと一人だった。周囲がすすめたいくつかの縁談も、すべてやんわりと断っていた。遼がそんな時江と父親との関係に疑問を持つようになったのは、成人したのち、次期家元として、周囲の期待を肌で感じるようになってからだった。
──遠い過去になってしまいました
(……それでいい)
居間にいる時江に「終わったよ」と小さく告げた。
「では、お食事にしましょう」
ひっそりと闇が迫ってくる。静けさを埋めてくれる時江の世間話も、今夜ばかりは耳に届かない。それを察した時江は口をつぐみ、彼の箸の進み具合を気にかけている。
来訪者に失礼が無いようにと、遼の母敦子が与えた小袖や小紋を、時江は今も大切に着回している。まとめた髪には白いものが目立ち、老いを感じさせるようになってはいたが、品の良いうりざね顔は、僅かに色気を留めている。
敦子に見込まれてここへ来てから、時江はずっと一人だった。周囲がすすめたいくつかの縁談も、すべてやんわりと断っていた。遼がそんな時江と父親との関係に疑問を持つようになったのは、成人したのち、次期家元として、周囲の期待を肌で感じるようになってからだった。