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我が運命は君の手にあり
第4章 第四章
「まったく、よく働くねぇあの子は」
信子の中で、事故死した息子は若い姿のまま生きていた。その一方で、真吾の死亡保険金や見舞金をすべて持ち出して失踪した嫁の事は失念しているらしかった。
冴子は写真でしか知らない父親の姿を信子の中に留めさせ、「お父さん」という使い慣れない言葉で遊んだ。
「さえちゃん、忙しいだろうからこっちに来るのはひと月に一二度でいいんだよ。何ヵ月も家族に会えないお友達がいるんだけど、なんだか悪くてねぇ」
過去と現在、虚と実を自由に行き来する信子は、もう息子の帰宅を心配してはいなかった。
「旦那様にくれぐれもよろしく伝えてね」
「うん、心配しないでおばあちゃん、私、お仕事頑張って旦那様に恩返しするから」
「そうかいそうかい、ありがとう、ありがとう」
窓から見える街の明かりが見慣れた景色になっていく。視線を下ろした冴子の目に、敷地内に入ってくる黒塗りの車が映った。噴水にそって弧を描き、エントランスに付き出した庇の下に隠れた。程なくして携帯が低く唸った。
信子の中で、事故死した息子は若い姿のまま生きていた。その一方で、真吾の死亡保険金や見舞金をすべて持ち出して失踪した嫁の事は失念しているらしかった。
冴子は写真でしか知らない父親の姿を信子の中に留めさせ、「お父さん」という使い慣れない言葉で遊んだ。
「さえちゃん、忙しいだろうからこっちに来るのはひと月に一二度でいいんだよ。何ヵ月も家族に会えないお友達がいるんだけど、なんだか悪くてねぇ」
過去と現在、虚と実を自由に行き来する信子は、もう息子の帰宅を心配してはいなかった。
「旦那様にくれぐれもよろしく伝えてね」
「うん、心配しないでおばあちゃん、私、お仕事頑張って旦那様に恩返しするから」
「そうかいそうかい、ありがとう、ありがとう」
窓から見える街の明かりが見慣れた景色になっていく。視線を下ろした冴子の目に、敷地内に入ってくる黒塗りの車が映った。噴水にそって弧を描き、エントランスに付き出した庇の下に隠れた。程なくして携帯が低く唸った。