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第1章 累（かさね）

「はい内路でございます…」

電話は、慶彦が勤務している職場からでありました。

この時しげよは、慶彦が上司の男性に強烈な暴力をふるったあと職場名義のスマホ２台とセディナ（クレジットカード）を盗むなどして、帳簿に大穴を開けたのでケーサツに被害届を出しましたという知らせを聞いたのでありました。

しかし、しげよは恐ろしい知らせを聞いたと言うのにビックリしませんでした。

「あっそうですか…すみませんけれど、慶彦を逮捕していただけますか？もううちは、慶彦のことをかばいきれません…慶彦は妻子に愛想尽かされて離婚してしまったし…他に身よりはいてへんけん…うちは慶彦が起こした金銭のもめ事を解決する力は残っていないので…ええ…」

しげよはこう言うたあと、受話器をおいて大きくため息をついていました。

もう慶彦のことはかばいきれないわ…

ヤーサンともめ事を起こした末に、職場の金銭を横領したのだから…

助けることができなくなったわ…

慶彦は妻子にも愛想尽かされたし…

身よりはいてへんけん…

見棄てるしかないわね…