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郁美の真実 parallel story
第31章 〜回想、早紀、小学5年生〜
せいぜい、メキシコ湾岸の国々で、石油やらボーキサイトやらエメラルドにコーヒーが輸出品だったという知識しかない。

しかし、早紀の言葉はMの逆鱗に触れてしまった。

Mはベネズエラでの不慣れな生活で、多くの友人たちに支えられて苦難を乗り切り、ベネズエラという国を愛していた。

それまで穏やかだったMの表情はにわかに鋭くなったかと思うと、次の瞬間早紀のほほにMの鋭い平手打ちが飛んだ。

早紀は予想もしていなかったMの豹変ぶりに驚くとともに、Mの強い平手打ちの衝撃で用具室のマットの上にたおれ込んでしまった。

「友達のことをバカにするのは許さないぜ。」

「オレは許せないと思ったら女でも容赦しない。」

早紀は怒りに満ちたMの表情を見ながら、これまで経験したことのない状況に狼狽した。

早紀は生まれてこのかた、人に殴られたことなどない。

これまで育った環境では、現実に暴力が振るわれる場面を見たことすらなかった。

暴力はニュースや映画で見るもので、早紀にとっては遠い世界のものだと思っていた。

(な....なにこれ....なんで殴ったりするの?....こ、このひと怖い....怖いよ)

早紀はこれまで経験したことない状況に置かれ、身体は硬直して震え、声を発することもできなくなってしまった。
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