この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
君の光になる。
第5章 化粧
「お母さん、お母さん……」
翌朝、夕子は母親を自室に呼んだ。
パタパタとスリッパが跳ねる音が上がって来た。
「どうしたの? 夕子、朝っぱらから……」
線香の煙の匂いがフワリと薫った。
シャっとカーテンのレールが滑る音が聞こえる。キラキラとした光を感じる。
「お母さん、あの……私、お化粧がしたいの。ダメ?」
ふうっと息を吐く音が聞こえ、「いいわよ……」という母親の声が少し籠もっていた。
「……いいの?」
「……いいに決まってるじゃない……女の子がお化粧するのは当たり前よ?」
夕子は自室で化粧品の匂いに包まれていた。時々、母親の鼻をすする音が聞こえた。夕子も涙が溢れた。
甘く少し脂のような匂いが唇に引かれる。口紅だ。
「お母さん、覚えてる。小さいころ、お母さんのお化粧をイタズラして……あのときの匂いと同じだわ」
「覚えてるわ。夕子ったら、顔中に口紅をつけて凄くご機嫌だったのよ。それをお父さんに話したら爆笑してたわ」
母親が笑い声が聞こえた。夕子も笑みが溢れる。
✣
「はい、出来上がり……」と母親が言いながら、髪に櫛を通してくれた。
「どう? お母さん、私……」
「とっても可愛いわ。夕子……」
母親の鼻をすする音が聞こえた。ため息の中に「ゴメンね」という声が混じる。
「お母さん……私の目は個性だと思うの。私の声とお母さんの声や顔が違うのと同じ……。まあ、時々、ちょっと不便だなって思うことがあるけど……。私は気に入っているのよ。毎日、色々新鮮だしね。私の目……。だから、お母さん……」
涙が溢れる。母親の指先が夕子の涙袋を滑った。
「……泣いたらダメ。ダメになっちゃう。せっかくのお化粧……」
二人の声が笑った。
翌朝、夕子は母親を自室に呼んだ。
パタパタとスリッパが跳ねる音が上がって来た。
「どうしたの? 夕子、朝っぱらから……」
線香の煙の匂いがフワリと薫った。
シャっとカーテンのレールが滑る音が聞こえる。キラキラとした光を感じる。
「お母さん、あの……私、お化粧がしたいの。ダメ?」
ふうっと息を吐く音が聞こえ、「いいわよ……」という母親の声が少し籠もっていた。
「……いいの?」
「……いいに決まってるじゃない……女の子がお化粧するのは当たり前よ?」
夕子は自室で化粧品の匂いに包まれていた。時々、母親の鼻をすする音が聞こえた。夕子も涙が溢れた。
甘く少し脂のような匂いが唇に引かれる。口紅だ。
「お母さん、覚えてる。小さいころ、お母さんのお化粧をイタズラして……あのときの匂いと同じだわ」
「覚えてるわ。夕子ったら、顔中に口紅をつけて凄くご機嫌だったのよ。それをお父さんに話したら爆笑してたわ」
母親が笑い声が聞こえた。夕子も笑みが溢れる。
✣
「はい、出来上がり……」と母親が言いながら、髪に櫛を通してくれた。
「どう? お母さん、私……」
「とっても可愛いわ。夕子……」
母親の鼻をすする音が聞こえた。ため息の中に「ゴメンね」という声が混じる。
「お母さん……私の目は個性だと思うの。私の声とお母さんの声や顔が違うのと同じ……。まあ、時々、ちょっと不便だなって思うことがあるけど……。私は気に入っているのよ。毎日、色々新鮮だしね。私の目……。だから、お母さん……」
涙が溢れる。母親の指先が夕子の涙袋を滑った。
「……泣いたらダメ。ダメになっちゃう。せっかくのお化粧……」
二人の声が笑った。