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君の光になる。
第4章 会いたい
「会いたい。安倍さんに会いたい」
夕子の記憶の中の安倍を思い描く。トニックシャンプーの匂い。彼の顔の形を……。
自分の唇をそっとなぞる。彼の柔らかく優しい唇を思い出して……。
窓から入る冷気を含んだ風が夕子の髪を揺らした。カサカサと言う音は、ススキというホウキのような雑草だと言う父の言葉を思い出した。ジーっという音の中にコロコロという虫の音が混じる。夕子は窓を閉めた。
次の日、夕子はいつもの時間に安倍と会った駅に向った。雑踏に押されるように同じベンチに腰掛ける。秋風にしては風が冷たい。
トニックシャンプーの匂いを感じた。
――安倍さん?
トニックシャンプーの匂いが雑踏と共に通り過ぎる。
プシューという電車の扉が開く音の度、雑踏が動くのを感じた。電車が到着する旨のアナウンスに耳を傾ける。
――次の電車が来たら……。
電車が滑り込んでは、滑るように再び動き出す。雑踏の音。
また、トニックシャンプーの匂いがした。押し合うような雑踏の音。
「こんにちわ……立花さん」
――安倍さん。
夕子の右側がキュっと軋み、ベンチが揺れた。トニックシャンプーの匂いが近くなる。
「あ、こんにちわ……」
夕子は素っ気ない声で答える。胸が高鳴る。自分の唇を今までにないほど意識する。
「あ、この間は……」
「ああ、いえ……もう、気にしないで……ください」
「……分かりました……あ、お願いがあるんですが……」
夕子は安倍と電車に乗り込んだ。
夕子の記憶の中の安倍を思い描く。トニックシャンプーの匂い。彼の顔の形を……。
自分の唇をそっとなぞる。彼の柔らかく優しい唇を思い出して……。
窓から入る冷気を含んだ風が夕子の髪を揺らした。カサカサと言う音は、ススキというホウキのような雑草だと言う父の言葉を思い出した。ジーっという音の中にコロコロという虫の音が混じる。夕子は窓を閉めた。
次の日、夕子はいつもの時間に安倍と会った駅に向った。雑踏に押されるように同じベンチに腰掛ける。秋風にしては風が冷たい。
トニックシャンプーの匂いを感じた。
――安倍さん?
トニックシャンプーの匂いが雑踏と共に通り過ぎる。
プシューという電車の扉が開く音の度、雑踏が動くのを感じた。電車が到着する旨のアナウンスに耳を傾ける。
――次の電車が来たら……。
電車が滑り込んでは、滑るように再び動き出す。雑踏の音。
また、トニックシャンプーの匂いがした。押し合うような雑踏の音。
「こんにちわ……立花さん」
――安倍さん。
夕子の右側がキュっと軋み、ベンチが揺れた。トニックシャンプーの匂いが近くなる。
「あ、こんにちわ……」
夕子は素っ気ない声で答える。胸が高鳴る。自分の唇を今までにないほど意識する。
「あ、この間は……」
「ああ、いえ……もう、気にしないで……ください」
「……分かりました……あ、お願いがあるんですが……」
夕子は安倍と電車に乗り込んだ。