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片想い
第1章 片想い
とんでもないことになった……。

僕は困ったが、彩夏を裏切ることはできない。申し訳ないけど、涼子さんには精子ドナーになることはできない、と素直に言おう。僕は涼子さんの帰りを待った。

すぐに涼子さんは戻ってきた。50歳くらいの男の人を連れている。

「紹介するわ。私の主人です」

「山崎健一です。よろしくお願いします」

「飯島真司です」

挨拶を交わしたあと、

「あの、涼子さん、僕……」

僕が話をしようとしたとき、涼子さんが弾んだ声で、

「健一さん、真司さんが精子ドナー受けてくださるって。私たちの子どもがつくれるのよ」

えっ!? 私たちの子ども!?

「涼子さん、それってどういうことですか?」

僕は、おずおずと尋ねた。

「真ちゃん、ごめんね。ある夫婦って私たちのことなの。真ちゃんに私たちの子どもをつくって欲しいの」

涼子さんの言葉に僕は絶句した。

「実はね。健一さん、無精子症なの。それで私たち第三者の精子を使って妊娠することを考えていたんだけど、なかなかいいと思う人が現れなくて……。そうしたら、突然、真ちゃんが目の前に現れて……。きっと神様が私たちに授けてくれたんだわ」

涼子さんは涙ぐんでいた。そんな涼子さんを見ていると、僕は断るのが、なんだか悪くなってきた。

「飯島さん、私からもお願いします。私のせいで涼子にはつらい思いをさせて……。涼子は専門家だけに、人よりもたくさん悩んできたはずです。私たちを助けると思って、どうかよろしくお願いします」

そう言って健一さんは、深々と頭を下げた。こんなにされると断るのは難しい。僕は、流れのままに「わかりました。僕でできることなら、喜んで……」と答えてしまった。
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