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君に熱視線゚
第52章 君に熱視線゚〜愛の鈍行列車〜
そんな晴樹に見つめられて、苗は照れてうつ向いた。
とても短い夜道の散歩。二人は仲睦まじく、マンションの中に消えていく──
そして……
「まだか苗…」
「……っ…」
呼び掛ける晴樹の声に、苗は肩をびくつかせていた……。
後ろでベッドシーツの擦れる音がする。
寝返りを打って、見つめる視線が背中に刺さる。
床に入る準備が中々進まない。一向にベッドに入ってこない苗を待ちくたびれて、晴樹は溜め息を吐いていた。
「もう、そのくらいでいいんじゃないか?」
「ま、まだだよ! 寝る前の手入れが一番大事だからさ…っ…」
鏡台の前に座り込んだ苗の背中に焦りが浮かぶ。
顔には輪切りにした胡瓜が張り付けてある。
苗の唯一自慢なしっとりお肌。あの、熟女女優にも負けない湯上がり美人肌を維持し続ける為に──
苗は鏡と向き合ったままそこから動かなかった。
「それ以上、プルプルになってどうするんだ…」
晴樹は言いながら鏡越しに微かに見える苗を眺めた。
輪切り胡瓜に覆われた顔面はけっこう笑える。
張り付きが弱いのか、一枚オデコの真ん中がポロリと落ちた瞬間に思わず吹き出し掛ける。
だがこれ以上待っては居られない──
そう、何せ久し振りに逢って交わした愛の営みは、三つ子の邪魔が入って中途半端なままだったのだから……。