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弥輿(みこし)
第3章 宗方宗家
風呂から上がり、用意されてあった仕立ての良い薄い藤色の浴衣に着替え部屋に戻れば、もう夕食が用意されている。
早いと思う気持ちと、やはり先程誰かが見ていたんじゃないかと疑う気持ちがない交ぜになって、私の不安を煽って来そう。
「此処はホテルじゃ無いんだから」
言葉に出して自分に言い聞かせても、何処か疑ってしまう私が存在。
だって個人宅だよ、プライバシー保護なんて無いと同じなんだよ、露天風呂から上がってもう食事のセッティングが終わっているって事は、やっぱり覗かれていたって事じゃない。
「今日……1日の我慢」
明日になれば久遠村から離れて自分が住む街に戻り、今までと変わらない生活に戻れる。
ワンルームマンションでもプライバシーがしっかりした私の家、其処に帰るまでの辛抱だよ、だって久遠村にという話を受けたのは私なんだから、少し話が変わったからと言って、此以上騒ぐ訳にもいかないじゃないの。
「我慢我慢」
不安はともかく、出された料理はどれも美味しそう、豪華というより郷土料理的な感じで、漁業がメインというだけあり魚料理が豊富、それに山もあるから山菜料理と海山バランスを取った料理内容、それに大好きなお酒も付いているしね。
でもお膳は1人分、という事は1人で食べて良いって取っても良いのかな?
「……………」
湯上りついでに1時間ほど待っても誰も来ず、此は1人で食べて良いと判断してお膳の前に座り、新鮮な刺身を一口。
「うわー!
めちゃくちゃ美味しい!!」
え?え?
鮮度の良い刺身ってこんなに美味しいの!?
街育ちの私としては驚くほどの衝撃、それに煮付けも天ぷらもどれを食べても全て美味しいのよ!
食べ物が美味しいと、ついつい手が伸びるのがお酒、普段日本酒は飲まないけど、この日本酒はライトで口当たりも良く喉にスッと入って行く。
見た時に多少多いと思った日本酒だけれど、此だったら全部飲み切ってしまいそう。
「こういう所は田舎って良いなぁ」
何事も鮮度が命ってテレビとかで言っているけど、此は本当だわ。
調子に乗って殆ど食べてしまったし、お酒も空に近いとは私のお腹現金。
食べ終わったお膳はそのままに、もう1部屋の方に移動。
そこはダブルサイズのローベッド、布団だけよりスプリングが効いていて寝心地が良く、酔った勢いも助けになり、私はそのままベッドで眠ってしまった。