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弥輿(みこし)
第10章 豊漁祭・秘中の儀式

みぞぎの後は夜着姿で部屋に待って居て欲しい、それが柊さんが言った事で、私は言葉に従い部屋で待っているんだけど、今日ばかりは此の部屋までも寒々と感じてしまう。

シーンと静まり音1つ無く、違うと言えば宗方が奉納したらしい物が白い布を被されて部屋の隅に置いてあるくらい。
何時もと同じ筈なのに、何時もと違う雰囲気が、私の此からを示しているようで怖いの。
隼さんが言った事が現実になる、そう考えると怖くて怖くて仕方がない。

気休めに障子を開き、続く縁側に座って見るけど、見えるのは時間によって光量が変化する照明と、やはり岩肌ばかり。
それでも僅かながらに感じられる風に身を任せば、幾らかは気持ちを落ち着ける事が出来る……先程外を見たせいかな?

何れくらいこうして居たのだろう? 時間の感覚が曖昧な此の奥社の中で、たゆたうように縁側の柱に寄り掛かり座っていたら、今度こそ表宮から戻って来た柊さんに声を掛けられた。

「こんな場所に……どうしました弥の巫女?」
「……気休め……
柊さんも弥の巫女と呼ぶんだね」
「表向きでは、俺はしきたりに逆らえません
名前では無く弥の巫女と呼ぶのも、またしきたりの内なのです
……特に今日は絶対に秘密を悟られてはならない、ですから俺も正式に扱います」
「そう……そうよね……
それで着替えだったよね?」
「ええ、そろそろ頃合いかと思います」

あの秘密がある限り、柊さんは私を厳格に弥の巫女として扱う、それは分かっている筈なのに、何だろう此の複雑な気持ち。
私は柊さんに何を求めているの??

縁側に座っていた私の手を取り、柊さんは部屋の中へと導き私の夜着を脱がした後、部屋の隅にある奉納品の中から桐で仕切られた箱を持って来た。

「正式な弥の巫女の衣装です」
「……………えっ?」

絹の布を払った後にあったのは、白く透けていて手前に赤い紐が付いた羽織みたいな物と、残りは襦袢1枚と白い紐の付いた……何と言えば良いのか……短い褌? そんな不思議な物があるだけ。

「此に意味はあります
弥の巫女は神と交合する事は言いましたね?」
「言ってました」
「その為に下履きは一切身に付けず、清い体で御神体様と相対するのがしきたりです」
「此の紐みたいな褌みたいな物は?」
「陰部を隠す為に使います、言うばかりでは無く身に付けて見ましょう」

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