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自由という欠落
第1章 がらんどうな方程式
マチエール、絵肌に女の体液を合わせたものを塗り込みたがる絵描きなど、他に知らない。
数学教師のYにでも、それが定石を外れた技法だと確信を持てる。
その実、ひとたび恋人が筆を握ると、喉は野生的な女の悲鳴を上げるだけの器官になる。
赤い豹柄のバスタオルが、Yの片側の乳房から下腹を愛想程度に覆っていた。開脚を命じられた下半身の間には、極太の玩具。Yは男の象徴を目に確かめたことがないが、少なくとも今、すました顔でキャンバスに利き手を滑らせている恋人の指ほど繊細で官能的ではあるまい。
ヴィィイイイイン──……
「んんっく……ああぁんっ」
にわかにバイブレーターの雁首が、Yの子宮のこよなく近くを辱めた。張型は、筆を休ませた女の干渉が加わるや、いよいよYの生理的現象を本格的に促す。
ヴィィイイイイン…………ヴン!ヴィン!ヴィィイイイイン…………
くちゅくちゅ……
ぬちゃ…………
「あああっっ」
「うん、溢れてきた。足りなかったんだ、有り難う」
Yのクリトリスから唇を離した女の頰は、濡れていた。唾液より、彼女の所望している成分が多くを占めているだろうそれは、言わずもがなその指先も灌水させている。
「やっぱバイブじゃダメだね。Yちゃんを満足させられるのは、私だけだ」
岸田はバイブレーターを上下に動かしながら、目当ての愛液を掻き出す片手間に、恋人のクリトリスをつつく。
「あああああっっ」
無邪気な少女の笑顔で資材を搾取している岸田は、美術教師だ。弱冠二十七歳の、芸術界ではアクリル絵師としても、そこそこの名を馳せている。