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Seven
第6章 グランジ
「最近、西宮さんに冷たくないですか?」
飲み物を切らしてしまい、休憩スペース近くにある自動販売機まで来たのだが、自分の名前が耳に入り、咄嗟に近くの通路側の角に身を潜めた。
誰と誰が話しているのか姿が見えないため、声でしか判断できない。おそらく先程発言したのは、小林さん……だと思う。
「気のせいだよ」
「そんなことないと思うんですよね。明らかに前と態度違うし」
「……小林、お前の気のせいだって」
「けど、雪さん」
小林さんと雪さんで私の話をしていたのか。これ以上聞くのは悪い。仕方ない、一階のコンビニまで行こう。エレベーターを目指そうと背を向けたとき、「おい、小林」雪さんの低い声に足が止まった。自分の名を呼ばれたわけでもないのに、彼の重圧ある話し方にその場から離れることができなかった。
「お前、ここがどこか分かってんのか?」
「え? どういう意味ですか?」
「はぁ……。いいか? ここは会社だ。仲良しごっこをしに来るとこじゃない。俺も西宮さんもお前も同じ会社の社員同士でしかないってこと。だから、仲がいいとか仲が悪くなったとか無いの。お分かり?」
「……キャプテン・ジャック・雪さん」
「ったく。バカなこと抜かしてないで、早く仕事戻れ。煙草吸わないヤツが近くにいると、煙草吸えないし」
「はい。失礼します」
「……本当、小林は変わってるなぁ」
背筋がピンと伸びるような場面でも、小林さんはマイペースを崩さない。だからこそ、営業でもその特色が活かされている。彼に比べて私は……影でコソコソと聞き耳を立てて、最低だ。かと言って、彼らの会話に加わる自信はない。
「……はぁ。社員同士、か」
肩を落としながら、エレベーターの前まで行き、下矢印を押した。気持ちまで下降してしまい、明るく光ったボタンから、しばらく指を戻すことができなかった。