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Seven
第6章 グランジ
「もう最悪……」コンビニの袋を右手に下げ、ユータくんは戻ってきたのだが、彼の後ろから「ちーっす!」と雪さんが顔を出した。
「あら、雪くん」
「お、お疲れさまです!」
突然の登場に心の準備ができず、オドオドした挨拶になってしまった。そんな私に雪さんは「お疲れ!」と明るい声で返してくれた。一社員同士としての挨拶だと分かっていても、自分に向けられた笑顔にときめいてしまう。
「つーか、深雪ちゃん。泣いた?」
「……っ!?」
一直線に私の元に雪さんはやって来ると、身長の低い私と同じ目線になるよう大きな体を屈め、瞳の奥を覗き込んだ。いつもながらに距離が近い。でも、こうして雪さんと急接近したのは久々かもしれない。最近は、一緒に営業にも行っていなかったから。事務所で会っても、簡単な挨拶と仕事の確認等でしか話していなかった。
「それに、なんだか──前より、女度上がってない?」
「え!? 本当ですか!?」
意識して毎日スキンケアするようになったから、成果が出たのかも! 前まで洗顔後のスキンケア、サボってたから……。
「好きな人のために努力したんだもんねー、深雪ちゃん」
「ちょ、ちょっと!! ジュディさん!!」
「いいじゃない。本当のことなんだから」
「マジか! 羨ましいくらい、深雪ちゃんに愛されてんなー」私の好きな人が自分自身だと知らない雪さんは、当然他人事だ。その反応がジュディさんは不服だったようで「鈍い男」と小声を漏らした。
ジュディさんの隣に立っているユータくんが雪さんにバチバチと火花を散らしている。
「アンタみたいなオジサンは論外なんじゃない?」
「言っておくけど、俺──年下のお前より、モテてるから」
「あー、だからか。取っ替え引っ替え常にしてるから、アンタの側には誰も残らないんだね」
冗談で返すのかと思いきや、雪さんは真面目に「そうかもな……」とだけ呟いた。ユータくんのお姉さんのことを思い出したのかもしれない。雪さんとユータくんのお姉さん、そして、ユータくんと雪さんの間で起きた出来事の詳細は分からないが、ユータくんの態度を見ていると並々ならぬ黒い感情を雪さんに抱き続けているのが分かる。