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Seven
第6章 グランジ
濁りガラスの壁で囲われたラウンジは冷房の音だけが響き、ひんやりとした冷蔵庫を思わせた。
私の気持ちが雪さんに伝わらないのと同じで、雪さんの気持ちもまた私には伝わらない。話さなくちゃ相手には届かないのに、雪さんはそれをしない。
「もっと話してほしいです、陣川さんのこと」
「それは、仕事で必要だから? それとも、単なるプライベート?」
「両方です。仕事でパートナーを組ませて頂いているわけですから、お互いを知ることも大切だと思っています。でも仕事だけだと表面しか見えないから、できればプライベートで内側も知れたら、もっと良い関係が築けるのではないかと……」
「真面目すぎ」呆れたように雪さんは笑った。むしろ、降参と言いたそうな顔をしている。
「深雪ちゃんには参ったな……。そう言われちゃったら、俺も大人の対応するしかないじゃんか」
「……大人の対応?」
「ごめんね、少し感情的になりすぎてた。ユータのお子ちゃまが移ったのかも」
「はぁ……」曖昧な相づちを打つ私に雪さんは続ける。
「この間、彼女がいるって話したけど……正確には、【いた】んだ」
「どうして過去形になるんですか!? 今も付き合ってるんですよね?」
「今も付き合いはあるけど、そういう付き合いじゃない。知り合いの一人で、時々ご飯に行く仲。……体の関係も」
「セフレ、というやつですね……」
「今のままじゃダメだって分かってる。お互いにとって良くないってことも。だけど、俺はアイツを拒めない。……俺のせいで、アイツの【家族】は壊れた」
「【家族】が壊れた?」
真っ先にユータくんの顔が浮かんだ。ユータくんにとって、お姉さんは初恋の相手。二人の姉弟関係が雪さんの出現により、ギクシャクしたのは何となく想像がつく。
「ユータの母親と真緒(まお)の父親が再婚して、二人は姉弟になった。俺たちが付き合いだした頃、ユータが真緒に思いを伝えたんだ。そしたら、真緒の親父の耳に入って、怒ってユータを家から追い出した。それから、すぐ二人の両親は離婚した」
「お話を聞いた限りだと、誰も悪くないと思います」
「真緒の親父にリークしたのが俺でも?」
「え?」
「酒に酔った席で話しちゃったんだ。ユータが真緒に迫ったって冗談交じりで。それを真緒の親父は真に受けて、その結果、ユータも真緒も家族を失った。……全部、俺のせいなんだ」